対韓輸出審査強化により、中国5Gで「独り勝ち」か【中国問題グローバル研究所】

経済
2019年7月18日 16時03分

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授が研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー

所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)

研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察となる。

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日本は7月4日に、スマートフォンや半導体製造に必要な材料に関して対韓輸出審査の強化を開始した。韓国政府がこれまでさまざまな側面において信頼に足る対応をしてこなかったことが根本的な原因であり、多くの日本国民も韓国政府への何らかの懲罰は不可欠だという思いがあり、この措置は肯定的に受け止められている。私も基本的にはその一人だと言っていいだろう。

ただ、日本政府が理由として挙げている「安全保障を目的とした適切な輸出管理の一環だ」という説明には多少の自己矛盾があり、そして何よりも今回の措置は中国が5G界において独り勝ちになることに資するという側面があることを見逃してはならない。 本論考では、その点に焦点を絞って考察する。

◆審査を厳重化した3品目

日本には1949年に定められた輸出貿易管理令というものがある。日本が輸出した製品が、輸入国あるいは輸入国を経由した第三国に渡って武器製造などに使われることを防ぐために、一品目ずつ個別に審査し、場合によっては輸出禁止にすることも含まれている。いわば、安全保障貿易のルールを決める規定だ。

相手国が信頼できる場合には、輸出業務の包括的承認を認める「ホワイト国」扱いになり、個別の審査はしない。

韓国はこれまで日本にとって「信頼に足る国」として位置づけられ、「ホワイト国」扱いをされて、輸出品目の個別審査から免れていた。

しかし、このたび、その信頼を失ったということで、ホワイト国扱いから外し、包括的審査をしないことになった。

対象となるのは、テレビやスマホのディスプレイに使う「フッ化ポリイミド」や、半導体ウェハーに回路パターンを転写するときに薄い膜として塗布する「レジスト」と、半導体製造過程においてエッチングガスとして使われる「フッ化水素」などの3品目だ。

経済産業省によれば、これらを「包括的輸出許可」の対象から外して個別的な輸出許可の対象に切り替えるとのこと。つまり、韓国に上記品目を輸出するためには、1件ずつ審査と許可を得る必要が生ずる。品目によっては途方もない時間がかかることもあり、場合によっては輸出を許可しないケースだってあり得る。

◆3品目の対日輸入依存度と対韓輸出依存度

韓国貿易協会のデータによると、3品目の韓国における日本からの輸入依存度は以下のようになっている。

フッ化ポリイミド:93.7%

レジスト:91.9%

フッ化水素:43.9%

一方、JETRO(日本貿易振興機構)のデータによれば、日本における韓国への輸出依存度は、

フッ化ポリイミド:22.5%

レジスト:11.6%

フッ化水素:85.9%

である。では残りの3品目はどこに輸出しているのかというと、中国(大陸)や台湾なのである。審査強化の理由が「安全保障を目的とした適切な輸出管理」であると日本政府は言っているのだから、アメリカも輸出対象国に入っているが、それは考慮しなくていいだろう。となると、警戒しなければならない「第3国」への輸出としては、中国に注目する必要がある。

では、3品目に関する日本の対中国輸出の割合はどうなっているかというと、

フッ化ポリイミド:中国36.3%

レジスト:中国16.7%

フッ化水素:中国2.6%

などとなっているのだ。

韓国に輸出した上記3品目が、輸出貿易管理令に触れるのであるなら、「韓国から中国に秘密裏に渡っている」などの理由が考えられる。

しかし、日本は直接、中国に輸出しているのだから、韓国経由で第3国(中国)に渡ったとしても、それを理由に「ホワイト国」から除外し、審査強化に入るという理屈は成り立たないのではないのか。

よほど細かな、そしてかなり苦しい自己弁明をしないと、この矛盾性に説得力を持たせることは困難だ。

北朝鮮に渡っている可能性も巷で指摘されたりしているが、それなら国連安保理の仕事だろう。これはさらに説得力に欠ける。

◆5Gにおけるファーウェイの独り勝ちを支援

上記3品目の審査強化によって、韓国企業で最も大きな打撃を受けるのはサムスン電子やLG電子、SKハイニックスといったIT大手だ。

ドイツのデータ分析会社「IPリティックス」による今年5月の調査データは、5G の技術標準(規格)に関する標準必須特許数で、ファーウェイは1554件と、2位のノキア1427件を上回って世界トップの座にのし上がっていることを示しているが、トランプ政権の攻撃により、トップの座を維持することが危うくなっていた。

6月29日のトランプ大統領の(一時的)敗北宣言に近いようなファーウェイに対する制裁緩和を受けて、息を吹き返しそうではあるが、何と言っても3位と4位にはサムスン電子、そしてLG電子と、韓国勢が控えているのである。5G必須特許出願の企業別シェアは以下のようになっている。

1.ファーウェイ(中国、民間):15.05%

2.ノキア(フィンランド):13.82%

3.サムスン(韓国):12.74%

4.LG電子(韓国):12.34%

5.ZTE(中興通訊)(中国、国有):11.7%

6.クァルコム(アメリカ):8.19%

7.エリクソン(スウェーデン):7.93%

8.インテル(アメリカ):5.34%

9.その他:12.89%

このデータから明らかなように中国勢は計26.75%だが、韓国勢は25.08%と、僅差で中国に迫る勢いなのである。

このような中、韓国のサムスンとLG電子に痛手を与えるのだから、当然のことながら、中国勢のシェアが相対的に伸びるだろうし、トップのファーウェイの独り勝ちを許すことにつながるだろう。

5Gの国際標準仕様を策定するデッドラインは目の前に迫っている。上記必須特許のシェアがカギを握り、その企業、その国の規格が国際標準となって5G世界の覇権を握ることになる。日本にとっては不愉快きわまりない現実が、そこに厳然と横たわっているのだ。

つまり、対韓制裁は必要であり、制裁自身は断行されてしかるべきだが、しかしそれが5Gにおける中国の独壇場の到来に資するようなものであってはならない。一党支配体制により言論弾圧をしているような国が、通信界を支配してしまうのだ。それでいいのか。

日本政府は、そのことにも目を向けなければならないのではないだろうか。

※1:中国問題グローバル研究所

https://grici.or.jp/

《SI》

提供:フィスコ

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