激化する米中対立、原油需要の下振れ懸念強まるも存在感なきOPEC <コモディティ特集>

特集
2019年8月7日 13時30分

米国は3000億ドル相当の中国からの輸入品に9月1日から10%の追加関税を課すことを発表したほか、中国を為替操作国に認定した。中国は為替操作国となったことで、米国の制裁対象となる。

6月末にトランプ米大統領と習近平・中国国家主席の会談を経て通商協議が従来の軌道に復帰するとみられていたが、7月以降に進展はなく、米国は中国に対する圧力を強めた。トランプ米大統領は望まない内容の合意を結ぶつもりはないと繰り返しており、中国が十分に譲歩するまで経済的な攻撃は緩みそうにない。外為市場でオフショア人民元は1ドル=7元の壁を突破して元安が進んでおり、貿易戦争が激化するなかで中国経済の行方のほうが懸念されているといえる。

●米中摩擦が続く限り、原油は水準を切り下げる

世界最大の石油消費国は米国であり、中国は米国に次ぐ。米石油需要は日量2000万バレル規模、中国は同1200万バレル規模と莫大であり、両国で世界全体の3割超の石油を消費することから、貿易摩擦の悪化による米中景気見通しの悪化は原油価格を圧迫する。

米中通商協議において、中国は来年の米大統領選を待ちつつ時間を稼ぎ、トランプ米大統領が再選されない可能性に賭けようとしているにしても、経済問題は米大統領選の最大級の争点である。大統領が誰になろうとも中国に構造改革を求める動きは変わらないだろう。中国の国営企業に対する補助金問題のほか、強制的な技術移転、知的財産権の保護など、中国企業との競争は対等ではなく、割りを食っているのは米企業であり、米市民である。不公平の是正は米景気拡大のための至上命題といえる。

中国が米国の要求を飲まない限り、原油相場は米中貿易摩擦の悪化によって水準を切り下げていくだろう。企業景況感が悪化している主要国経済は、設備投資の見送りなどによって減速が鮮明となっている。米国を中心に雇用環境は堅調であるとはいえ、企業は人的投資にも慎重になってくるに違いない。石油輸出国機構(OPEC)や国際エネルギー機関(IEA)は需要見通しの下方修正をまた迫られそうだ。

●産油国は原油安を放置できないが、打つ手はあるのか

原油価格の下落リスクに対して、増産を続ける米石油企業やOPEC加盟国など主要産油国は身構えているのではないか。OPECの舵取り役であるサウジアラビアは一時中止していた国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)の準備を再開しており、原油安はIPOの明らかな逆風となる。米国の石油生産輸出カルテル禁止法(NOPEC)法案を警戒しなければならず、OPECが積極的に相場を動かすことは難しいが、サウジは最低限でも相場を下支えしなければならず、アラムコのIPOで納得できる規模の資金を調達するには原油価格を上向ける必要がある。

サウジやロシアを中心としたOPECプラスは来年3月まで日量120万バレルの協調減産を続ける予定である。米国の制裁でイランやベネズエラの生産量がさらに減少する見通しのなかで協調減産が維持されているが、相場を支えきれていない印象だ。現在の石油需要下振れ懸念がそれだけ強いといえる反面、ロシアと手を取り合ってもOPECが価格統制能力を取り戻せていないことを示唆している。

原油価格の下振れリスクが強まっているなかで、サウジアラビアは黙々と自主的な減産を続けるのだろうか。今年4-6月期以降、サウジの生産量は日量1000万バレル以下であり、協調減産の目標水準である同1031万1000バレルをかなり下回って推移している。世界的な景気減速や原油安でIPOには不利な条件が揃っており、見送り含みのアラムコ上場準備といえそうだが、産油国にとって歳入を押し下げる原油安は放置できない。自主的な減産強化以外に対応が必要である。ただ、何ができるのだろうか。イランとロシアはホルムズ海峡などで軍事演習を行う予定で、米国とイランの対立による緊迫感の高まりは峠を過ぎたと思われる。突発的な供給下振れ懸念は産油国に味方しない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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