明日の株式相場戦略=「大発会デジャブ」も5Gなど個別株勝負の地合い
2020年の大発会となった6日の東京株式市場はスタート早々に激しい揺れに遭遇した。日経平均株価は一時500円強の急落で2万3148円まで水準を切り下げた。大引けは451円安だったが、昨年の大発会つまり19年1月4日は452円安だった。何と下げ幅でわずか1円違いの着地となったが、デジャブというには当時と今回とではバックグラウンドにかなりの相違がある。
米中対立の構図ばかりに目が向いていたが、年明けに米国の対戦相手としてリング上にあがってきたのは中国ではなくイランだった。もっともトランプ大統領が仕掛けた格好で、イランにしてみれば拳を振り上げるよりない状況に持っていかれた。今後、シーア派の怒りが地政学リスクとしてどういう形で反映されるかは現時点では想定しにくく、予断を許さない部分はあるが「彼我の差を考えれば(イラン側が折れて)本格的な軍事衝突に発展する可能性は低い」(大手ネット証券ストラテジスト)という見方が優勢。米国の単独的な行動がロシアなどを巻き込んで国際政治の紛糾につながるとのシナリオも現段階では蓋然性に乏しいといえる。そして、経験則からすれば株式市場は地政学リスクで壊れることは滅多にない。年明けの急落は一過性の波乱となる公算も小さくなく、新年相場の離陸直後に遭遇したエアポケットを買い場提供場面とみて、投資家サイドはしたたかに対処すべきところではないか。
日経平均は一時500円を超える下げをみせたが、アジア株市場でザラ場に2%超の下げをみせたのは東京市場のみ。中国・上海株市場に至っては後半に軟化したもののしばらくプラス圏で推移する頑強ぶりを示した。外国為替市場でのドル安・円高が日本株の下落を助長した要因との見方もあるが、実際に日経平均の下げを主導したのはファーストリテイリング<9983>とソフトバンクグループ<9984>の2銘柄でインデックス的な要素が強い。中東地政学リスクとそこから派生した円高・原油高騰をネタに先物を絡めた売りプログラムが作動したというのが実態といえる。
また東証1部は銘柄構成上売りの洗礼を浴びやすいが、新興市場、特にジャスダック市場については突風に煽られることもなく、日経ジャスダック平均の下落率は0.1%台にとどまった。個別株物色ニーズは相変わらず旺盛だ。中東情勢の緊迫化を受けて石川製作所<6208>、豊和工業<6203>、細谷火工<4274>、日本アビオニクス<6946>、重松製作所<7980>など防衛関連株に位置付けられる銘柄が一斉にストップ高に買われる人気となったが、これは多分にマネーゲーム的要素が強いとはいえ、それに属さない材料株もストップ高に買われる銘柄が多数出ている。個人投資家を中心とした株心は失われていない。
値幅制限上限で張り付いた両毛システムズ<9691>などはその筆頭だが、同社株にとどまらず、国内のシステム開発分野で活躍する銘柄群に株価の強さを際立たせるものが多いようだ。為替動向や海外情勢に左右されにくい5GやDX(デジタルトランスフォーメーション)に絡む銘柄が物色人気の中心軸を担っている。
そうしたなか、にわかに動意をみせているのがTDCソフト<4687>だ。同社は独立系システムインテグレーターで、独自開発により構築したEDIシステムなどクラウドサービス全盛時代に対応した戦略で商機を捉えている。そして、特筆すべきは「ローカル5G」関連の最右翼でもあること。企業向けセキュリティーに強みを持ち高速大容量通信のプライベートLTEを展開するLTE-X(東京都品川区)と資本・業務提携関係にあり、協業でローカル5Gを活用した新サービスを提供する姿勢を前面に押し出している。更に5G関連では通信インフラのシェアリング事業を展開する直近IPO銘柄のJTOWER<4485>も足が軽い。上場後の高値圏を走り戻り売り圧力を浴びない形で上値指向を強めており、引き続き注目となる。
このほか、システム開発関連ではNTTデータ <9613> や日立グループと強固な取引関係を構築しているCIJ<4826>。頑強な足で株式需給関係も良い。また、中東の地政学リスクで一連の防衛関連とはひと味違う形で上値妙味を膨らませているのが新報国製鉄<5542>。露光装置用部品に特殊鋳鋼を展開していることで半導体関連としての人気素地を持つが、シームレスパイプ工具のトップメーカーでもあり、原油市況上昇も株高思惑につながる。きょうは急動意したが、ここ2年間のタームで見た場合はまだ底値圏に近いゾーンだ。
日程面では、あすは12月のマネタリーベースのほか10年国債の入札がある。海外では11月の米貿易収支、12月の米ISM非製造業景況指数など。(中村潤一)