S&P500 月例レポート ― 1月は最高値6度更新も下落、懸念される新型肺炎の影響長期化 (2) ―

市況
2020年2月14日 13時30分

●トランプ大統領と政府高官

○戦争突入の一歩前

→親イラン派の民兵組織がイラクの首都バグダッドにある米国大使館を取り囲み、焼夷弾によって攻撃した事件を受けて(その前に起きた米軍基地への攻撃では米国人1人が死亡)、米国はバグダットの空港でイラン革命防衛隊の司令官をドローン攻撃によって殺害する報復行動に出ました。その後、イランも報復として、イラクの米軍駐留基地に対してミサイル弾による攻撃を行いました。こうした中、株式市場の取引開始前に、金相場が2013年以来となる1オンス=1,613ドルまで急騰し、S&P 500指数先物も一時1.5%以上下落する反応を見せました。

しかし、市場は米軍側に死傷者が出なかったとの報道を受けて落ち着きを取り戻しました。トランプ大統領は記者会見を開き、イランを非難はしたものの対抗措置の発動には踏み切りませんでした。市場はこうした大統領の対応から、事態は「一件落着」したと解釈しました。さらに悪いニュースを予想する声も聞かれましたが、それほど深刻には懸念されませんでした。結局、原油価格は1バレル=60ドルを割り込み、金価格も1,550ドル台半ばの水準まで下落しました。株式市場も持ち直し、最高値を更新しました。「終わり良ければ総て良し」ということでしょうか。しかし、私はこうした見方に懐疑的です。

→原油価格はその後も下落基調が続き、1バレル=52ドルを割り込み、同51ドルで月を終えました。

●貿易関係

→中国の劉鶴副首相がワシントンを訪問し、トランプ大統領と共に「第1段階」の貿易協定に署名しました。この合意により、両国による追加関税の発動が見送られるとともに、発動済みの制裁関税の一部が引き下げられました(とはいえ、大部分の制裁関税は継続)。また、今回の合意により、今後も関税の引き上げではなく引き下げに向けた長い交渉プロセスが続くことが示唆されました。米国が推進する二国間貿易協定も交渉相手国にさらなる圧力をかける可能性があります(多国間貿易協定の場合と比較して)。注目すべきは、署名に先立ち、米財務省が中国の為替操作国認定を解除したことです。

→ダボス会議(1,500人の世界的リーダーが集まる世界経済フォーラムが開催する[金のかかる]年次総会)の場で、トランプ大統領はグローバルな貿易戦争の次の標的となるEUに関してコメントし、貿易協議で年内に合意したいとする一方で、追加関税の発動も示唆しました。

→トランプ大統領はメキシコ・カナダとの新貿易協定(USMCA)実施法案に署名しました。

○弾劾手続きは1月も続行

→米下院はトランプ大統領に対する弾劾条項2項目を上院に送付する決議案を可決しました。これを受けて上院での弾劾手続きが開始されましたが、審理には数週間(日曜を除く毎日行われる)かかる見通しです。大統領の罷免には上院では3分の2の賛成が必要です(上院の構成は共和党53議席、民主党47議席)。

→両党の方針通り行われた弾劾裁判の進め方に対する採決を経て、上院での審理が始まりました。弾劾の罪状について検察側の下院議員と大統領弁護団が(それぞれ3日間にわたり)意見陳述を行い、その後に書面による質問と双方からの書類提出が行われました。証人招致は否決されたため、2月3日の週に最終弁論が行われて評決が下る見通しです。とはいえ、大統領の罷免には上院の3分の2の賛成が必要なため、採決で有罪となる可能性は低いとみられます。

. 各国中央銀行の動き

○12月のFOMC議事録はFRBが政策を据え置き、米国経済に対してリスクを懸念しつつ「様子見」姿勢を取ることを示しました。

○地区連銀経済報告(ベージュブック)は、前回公表(6週間前)以降、経済は「緩やかに」改善し、2020年の基調はなお概ね良好であることを示しました。

○FOMC会合では、予想通り金利と金融政策が据え置かれました(ただし、調整のためにリバースレポ金利を0.05%ポイント引き上げ)、FOMCは依然としてハト派姿勢を維持しているようです。

○イングランド銀行は政策金利を据え置きました(賛成7、反対2)。同中銀はインフレ率の目標水準への回帰は2021年末以降になるとみています。

●企業業績

○市場では楽観的ムードが続き、これまでにS&P 500指数構成銘柄の45%(時価総額ベースで61%)が決算発表を終えた段階で、利益が予想を上回ったのは227銘柄中152銘柄、予想を下回ったのは57銘柄、予想通りは18銘柄となりました。売上高では224銘柄中144銘柄が予想を上回りました。

→2019年第4四半期の利益予想は前期比1.6%の減益、落ち込んだ2018年第4四半期(会計方針の変更や通常の減損処理などによる)からは、11.8%の増益となる見通しです。

→2019年通年では前年比3.6%の増益、大統領選が行われる2020年は同11.1%の増益が見込まれています。また、今回初めて公表された2021年に関しては前年比11.2%の増益が予想されています。

→株式数による影響も続いており、決算発表済みの企業のうち、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄(つまり、利益の総額が横ばいでも、1株当たり利益では4%以上上昇)の割合は27.4%と、2016年第1四半期の28.2%以来の高水準となりました。

●個別銘柄

○米国の生活用品小売チェーン大手Bed Bath & Beyond(BBBY)は、所有不動産の半分について、売却後リースを受けるセール・リースバック契約をプライベート・エクイティ・ファンドのOak Streetと締結したことを受けて、6.4%高となりました(契約の結果、譲渡益の2億5,000万ドルが債務返済に充てられます)。Bed Bath & Beyondは四半期決算で赤字を計上し、理由としてホリデー商戦の不振を挙げました。同社の株価は17.6%下落して1月の取引を終えました。

○家具・インテリア用品などの小売店舗を展開するPier 1 Imports(PIR、1月は50.1%安)は942店舗中450店舗を閉店し、事業を見直すことを発表しました。

○百貨店大手Macy’s(M)は11-12月の既存店売上高が前年同期比0.6%減となったことを明らかにしました。事前予想では2.5%減が見込まれていました。同社は年次の事業見直しの一環として28店舗の閉店を明らかにしました。

○自動車メーカーのGeneral Motors(GM)は中国の自動車販売台数が2019年に15%減少し(2018年は10%減)、2020年も売上は軟調が見込まれると警告しました。

○イランの首都テヘランで、ウクライナの航空会社が運航するボーイング(BA)737小型旅客機(運航停止中の737MAXとは異なる)が離陸直後に墜落し、乗員乗客176名全員が死亡しました。米国はこの墜落をイラン軍の撃墜によると発表しました。イランは当初否定したものの、後に過失による撃墜を認め、この発表を受けてイラン国内で抗議行動が起こりました。

○生活用品ストアのTarget(TGT)はホリデー商戦が低調だったことを理由に、今四半期(期末日は2020年1月31日)の業績が期待はずれとなる可能性を示唆しました。

○Alphabet(GOOG/L)はAmazon、Apple、Microsoftに次いで、時価総額(株式総数ベース)が1兆ドルに達した4番目の銘柄となりました。アマゾンが浮動株調整後ではなく、全株式を用いているのと同様に、この計算で使用されている株式数は、Alphabetの非上場株式である「クラスB」株式も加えた株式総数に基づいています。ちなみに、S&P 500指数に基づいた加重ベースでは、時価総額が1兆ドルに達したのはAppleとMicrosoftの2社だけです(両社は現在も1兆ドル以上を維持)。

○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスはクラウドベースのソフトウェアを提供するPaycom Software(PAYC)をS&P 500指数に追加し、ヘルスケア企業Centene Corp(CNC)に買収されたWellCare Health Plans(WCG)を同指数から除外しました。

※「1月は最高値6度更新も下落、懸念される新型肺炎の影響長期化 (3)」へ続く

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