明日の株式相場戦略=手の内のジョーカーを切ったFRB
週明け16日の東京株式市場では、日経平均が前週末終値を挟み右往左往する展開となった。今回、世界株大波乱の元凶となった新型コロナウイルスは、実勢経済や金融市場にとってもかつてない難敵として立ちはだかっている。マーケットはもはやエイリアンを相手にしているような感覚に陥っているのではないか。
きょうは日米の中央銀行が売り方の機先を制するような積極的な動きをみせた、と称賛したいところだったが現実は甘くなかった。FRBが15日(日本時間16日早朝)に政策金利を1%引き下げる緊急利下げに加え、米国債とMBS(住宅ローン担保証券)を対象とした7000億ドルの資産買い入れによる実質量的緩和の再開を発表。前週末にNYダウが2000ドル近い急反騰をみせた後の畳みかけるような政策アナウンスに、東京市場も色めき立った。さすがに底入れの動きとなることを期待させたが、時間外で1000ドル強下げた米株価指数先物を横目にしながら冴えない動きを強いられた。更に、FRBと歩調を合わせて日銀も18~19日に予定していた金融政策決定会合を前倒しで実施、後場に入りETFの買い入れ枠を従来の年6兆円から12兆円に倍増させるなどの方針を発表した。
いったんは、これにアルゴリズムが反応して日経平均は350円程度の上昇をみせたが、それもつかの間、倍返しで売り直される展開となった。そこから予想だにしなかった1万7000円割れまでの崩れ足は、株式市場上空を覆う暗雲をイメージさせるのに十分なインパクトがあった。大引けは1万7002円とかろうじて大台ラインをキープしたものの、時価は3年4カ月ぶりの安値に沈んだ。
理屈的には日銀のETF買いの12兆円枠が一時的な措置であり、基本的な買い入れペースは6兆円のままという“但し書き”があったこと、更に、日銀が受け皿を2倍に広げたことで、海外マネーの日本株売りを加速させる呼び水となるとの見方が嫌気されたという解釈だ。それよりは、7000億ドル資産買い入れを発表したFRBに対抗して、日銀も“国債買いまくる宣言”を出すべきだったという声もある。せめて看板に掲げる80兆円枠をマストで遂行するというメッセージだけでも必要だったという意見が聞かれた。いずれにしてもマーケットは、日銀の姿勢を米国と比較して及び腰であると判断した。
しかし、きょうのところは何を出してもタイミング的に報われなかった可能性はある。コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、経済活動がリアルに動かなくなっているという現実に対抗できるのは、コロナを駆逐するワクチンや治療薬の開発もしくは発見しかない。あるいは自然に収束するのを待つか、感染しても毒性はそれほど強くないから過剰に恐れることはない、というような諦観的なムードが醸成されるのを待つかである。
FRBにすれば手の内のジョーカーを切ってしまった。コロナに金融緩和は効かないというアイロニカルな悲観論を増長させてしまった感もなきにしもあらずだが、一つ言えるのはコロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかり、どういう形にせよ収束に向かう方向が見えてくれば、強力な金融相場環境が株価急反騰を演出するということ。1~3月の企業業績がどんなに悪くても、あるいは4~6月も厳しい経済環境を引き継ぐことになったとしても、必ず反転上昇のビッグウェーブが巡ってくることは確かだ。
きょうは日経平均が結局430円弱の下げとなったが、東証1部の値上がり銘柄数は1019と全体の47%を占めた。少なくとも一方通行の下げではない。また、全体波乱相場に強いブイキューブ<3681>のほかACCESS<4813>やヤーマン<6630>、アルトナー<2163>、ベステラ<1433>などストップ高銘柄も続出した。これについては「貸株調達による空売り玉の買い戻しなどが作用した」(国内ネット証券)という指摘で、今の地合いで持続性に乏しいとの見方もあるが、全体相場が落ち着けば、こうした中小型株の活躍場面が改めて訪れそうだ。
日程面では、あすは2月の首都圏・近畿圏マンション販売、1月の鉱工業生産指数確報値など。またIPOは2件で、ドラフト<5070>、リビングプラットフォーム<7091>がそれぞれマザーズ市場に新規上場する。海外では、2月の米小売売上高、2月の米鉱工業生産、設備稼働率、1月の米企業在庫。このほか、3月の全米NAHB住宅市場指数や3月のZEW独景況感指数なども注目となる。
(中村潤一)