世間を騒がせたアパート3銘柄、再浮上のポイントはどこ? -下
株探プレミアム・リポート
ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。
2018年にそろって不祥事を起こしたお騒がせアパート3銘柄が、再浮上を狙ってビジネスモデルの再構築・強化を進めている。そうした中、足元では、新型コロナウイルスのショック暴落に巻き込まれている。
もっとも下のグラフに見られるように、3社とも今回のショックに襲われる前から、株価は不祥事で低迷していた。その中で、前回触れたレオパレス21 <8848>はコロナショック後の値下がりは14%と他の2社に比べればマイルドな一方で、TATERU <1435>は45%、APAMAN <8889>は37%のマイナスとなっている。
■お騒がせ3銘柄の株価推移と騰落率
注:不祥事発覚前月終値」は、レオパレスが18年4月末、TATERUが同8月末、APAMANが同12月末の終値。ショック直前は今年1月末終値。足元は3月27日。▲はマイナス
今回はコロナショックの影響も大きかったTATERU <1435>とAPAMAN <8889>について見ていく。2社の業容と不祥事の内容をおさらいすると、サラリーマン向け投資家向けに一棟アパートの開発・販売を手掛けるTATERUは、約350件にのぼる顧客の融資審査資料の改ざんが18年9月に表面化した。もう1社のAPAMANは不動産の賃貸仲介および管理をチェーン展開し、18年末、同社の系列店が札幌でガス爆発事故を起こし、世間を驚かせた。
TATERUは、不祥事発覚で株価が10分の1程度に下がり、さらにコロナショックでも大きく値を下げた。一方のAPAMANは、不祥事後の株価下落はほかの2社に比べてマイルドだったが、コロナショックによる影響はTATERUと同水準の落ち込みに襲われた。
それはなぜなのか。まずはTATERUから見ていこう。
TATERU――売り切りから継続収入型にモデル転換
TATERUは現在、ビジネスモデルの転換を急いでいる。自社開発した一棟アパートをサラリーマン投資家に販売する売り切り型(フロー)主体のモデルから、販売したアパートなどの賃貸管理を請け負い、毎月定額収入を稼ぐストック主体のモデルへ転換を図っている。
主力のアパート開発・販売ビジネスは、投資家離れなどで大きく低迷。売上高は2018年12月期の791億円をピークに、19年12月期は188億円と4分の1に激減。20年12月期は60億円とさらに3分の1に縮小する見込みだ。ストック事業への構造転換は、もはや目標ではなく、必達すべき使命になっている。
■問題発覚前後でTATERUの事業モデルの変化と業績の動き
変革の鍵は、業界で先行するIT & IoT
TATERUの事業構造改革で鍵となるのが、ITおよび全てのモノがインターネットでつながるIoTだ。同社はこれまで自社のサービス展開で、「販売」「賃貸管理」「自社業務」でIT、IoTの導入を進めてきた。これらのリソースを生かして、外販用に機能を改良ないし開発していく。
IoTではスマートフォンで外出先から操作できる家具家電やセキュリティー機器、そして操作用アプリを、外部の賃貸住宅に提供し、販売料と月額の運営手数料を得る方針。すでに自社管理物件では順次導入しており、ロボットホーム事業という名称でわずかながら収入を生み出している。今期から本格的に外販を始める。
■TATERUが計画するIoT機器の設置イメージ
出所:会社IR資料
これまでのTATERUのIoT対応は、あくまで自社販売物件の競争力を強化する一環で、物件販売の収益力を高める位置づけだった。しかし今後は、事業モデル転換でIoTシステムの販売に軸足を移し、しかも売り切りではなく、定額の利用料を得ることで、収益の安定化を図ることになる。
同社はIoT事業で先手を打てるのか。中堅ハウスメーカー、パナソニックホームズの元幹部は「(TATERUのシステム開発力は)不動産業界では群を抜いている」と言う。例えば同社の急成長を支えた『TATERU Apartment』と呼ばれるアパート販売・管理プラットフォームは、同社のIT開発力を示す代表的なシステムになる。
そのプラットフォームでは、不動産投資家はスマートフォンのアプリ上で、ワンストップでアパート経営を始められる。会員登録後、投資家が好きな営業スタッフを選び、チャットで相談しながら土地の紹介、そこに建物を立てた場合の収支シミュレーションまで一連の提案を受けられる。投資家は「買い」と思ったら、購入申し込みと融資審査に進む。購入後の賃貸管理や清掃発注など、大方の業務もアプリでやり取りできる。
このシステムによって同社のアパート販売が伸び、12年12月期に101億円だった売上高は、IPO(新規株式公開)した15年12月期には215億円と3期で倍増。トップラインの急成長は続き、16年12月期の売上高は379億円、17年は670億円にまで拡大した。アプリの登録者数は、最後に開示した17年末時点で約15万人に達していた。
■『株探』プレミアムで確認できるTATERUの成長性の推移
TATERUはこうした仕組みを構築するべく、2010年頃から専任のITエンジニアを囲い込み、自前主義であらゆる業務効率システムを開発してきた。15年に21人いたエンジニアは、2年後の17年には77人と3倍超に。社員総数の22%を占めるに至った。今でもFAXが主流の不動産業界において、TATERUは先進的な存在だった。
アパート最大手の大東建託 <1878>は、同社初のIoT付きの新築アパートを19年夏に竣工したばかりで、運用実験を始めて間もない段階だ。IoT化に積極的な大和ハウス工業 <1925>も、58万戸ある自社管理物件にIoT機器を順次導入しているが、外販の意思までは示していない。
一方のTATERUはIoT製品の自社開発、自社管理物件への活用を3年前から試行を進めていた。
総務省の統計によれば、国内には約2000万戸の賃貸住宅が存在する。IoT設備が整備されている物件は、まだわずかというのが業界の認識だ。その見方に立てば、TATERUのIoT事業は、先行者利益を獲得できる余地があり、アパート管理手数料に並ぶ、ストック事業の柱になる可能性を持つことになる。
とはいえTATERUが先行するといっても、現在2万5000戸の管理物件のうちIoTシステムが導入済みの物件は8000戸超と全体の3分の1に届かない状況だ。同事業は「ロボットホーム事業」という名称で展開されており、19年12月期のセグメント売上高は5億円、営業利益は240万円にとどまる。同社が掲げる2022年度の営業利益目標10億円の1割も満たない水準にすぎない。
2020年12月期以降の決算で、このロボットホーム事業の数字がどの程度まで伸びていくのか、そのモメンタムが注視材料になる。
APAMAN――実は「働き方改革」のテーマ株になる可能性も
最後のお騒がせアパート銘柄であるAPAMAN<8889>は、先の2社に比べて業績の落ち込みが限定的だ。ガス爆発というインパクトの強い事故を起こしても、経営が傾くほどの打撃を受けていない。株価の下落率も、先に触れたようにほかの2社と比べて低く抑えられている。
再浮上のポイントは、新規事業の「コワーキング施設運営」のマネタイズ化の成否が大きくかかわっている。
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