Jトラスト Research Memo(5):日本金融事業、韓国及びモンゴル金融事業を中心に業績は回復基調(3)

特集
2020年6月15日 15時25分

■Jトラスト<8508>の業績動向

(3) 東南アジア金融事業

東南アジア金融事業では、東南アジアで最大の人口を持つインドネシアにおいて、ライツ・オファリングで得た資金により、銀行業のBJIを傘下に収め、現在は同行の立て直しに注力している。また、債権回収業のPT JTRUST INVESTMENTS INDONESIA(以下、JTII)、マルチファイナンス会社のJTOを傘下に持つ。さらに、カンボジアにおいて、2019年8月より優良銀行であるJTRBを傘下に収め、銀行業務を開始している。同社グループでは東南アジア金融事業が第3の収益の柱に成長し、グループの業績をけん引することを期待している。

2020年12月期第1四半期の東南アジア金融事業の営業収益は4,102百万円(前年同期は2,726百万円)、営業損失は1,204百万円(同損失1,889百万円)となった。カンボジアのJTRBグループインに伴い、収益は増加した。営業損失も改善傾向で、銀行の不良債権処理を断行し、再建に向けた改革を継続している効果が表れているようだ。

長期間にわたって預金保険機構の管理下にあったBJIについては、同社グループでは最優先課題の1つとして再生に取り組んでいる。これまでに、同行の増資を行うとともに、不良債権の回収に特化した新会社JTIIを設立して、同行から不良債権を切り離して譲渡することにより、財務体質の改善を図るなど、銀行再生を加速してきた。ただ、銀行再生が計画どおりに進まなかったことから、2019年3月期決算において抜本的な対応に踏み切った。すなわち、BJIでは買収前からの負の遺産である不良債権を前倒しで一括処理することを決断した。このように抜本的な不良債権処理を断行することで、東南アジア金融事業の業績急回復を実現するための基盤を整えたと言えるだろう。

同社ではBJIの再生に時間を要している原因は人材の能力、リスクマネジメント、ITシステム等の不足にあったと分析し、2019年12月期は次のような事業基盤の再構築に着手した。すなわち、第1に、「人材、組織の再構築」を実施し、リスクマネジメント体制の整備と審査部門の強化を図った。コンプライアンス/審査部門に日本人マネジメントを配置するとともに、韓国で貯蓄銀行の再建を手掛けた人材をインドネシアへ派遣した。第2に、「ITの改善」を行い、モバイルバンキングアプリを開発し、2019年8月よりサービスを開始した。効果的な集客により低利の普通預金を集め、預金コストの低下を見込む。第3に、「優良資産の積み上げ」を図るため、JTOを中心とした資産の積み上げに加え、日系/国営/財閥系・大手銀行系企業への貸付や社債への投資を進める。第4に、「債権回収のための体制整備」を実施し、日本や韓国で培った債権管理/回収ノウハウを融合させ、JTIIに注入した。そのために、債権管理/回収担当者を2019年3月期末の39名から2019年12月期末には75名に増員した。

BJIでは、回収及び不良債権売却を進めた結果大きく減少した貸出残高は、2019年11月の408億円で底を打ち、2020年3月には494億円へと増加に転じている。一方、90日以上延滞債権率は2019年3月の5.62%からは大きく低下しているものの、足下では2019年12月の1.49%を底に、2.63%に上昇している。今後は、優良債権の積み上げを図り、不良債権比率を抑制することが課題であろう。なおBJIは、2020年1月にはインドネシア証券取引所(IDX)で取引再開を果たしている。

マルチファイナンス会社のJTOについては、2018年10月に株式60%を取得しグループ傘下に収めた。JTOはオートローン業界の老舗として高い知名度があり、インドネシア全土の支店網や取引金融機関との豊富なネットワークを有している。既に提携先等のパートナーも増えており、従来の中古車ローンに加え農機具ローンや新車ローンなど新しい商品の提供を始めている。また、BJIのバランスシートを活用し、資金調達の安定化、資本効率の向上を進めつつ、銀行の再建にも寄与する見通しである。JTOのアセットはグループ入り後、右肩上がりで増加しており、2020年3月には127億円に達している。なかでも、BJIとのジョイントファイナンスによるアセットは91億円へと急増している。その一方で、90日以上延滞債権率は1.86%にとどまり、厳格に債権管理がされている。

債権回収業のJTIIについては、BJIより移管された不良債権に対しては貸倒引当金を計上済である。今後は、これまでに蓄積したノウハウを活用して債権の回収拡大を図る。インドネシアでは専業の債権回収業者が不足しており、業界形成がこれからのインドネシア市場における先行者利益(収益機会)の獲得につながる。これまで日本・韓国で培ったノウハウも融合させ、債権の積極的な回収を進める計画だ。既に新体制移行後、人員増強の効果もあり、回収実績は一段レベルが上昇している。JTOのグループ入りに伴い、韓国に続きインドネシアでも、銀行、債権回収会社、ファイナンス会社の三位一体の事業セグメントが構築され、幅広いエリアにおける多様なニーズに応えられる体制が整ったことになる。

加えて、2019年8月には、カンボジアの商業銀行42行中、TOP10に入る資産規模のANZR銀行の株式55%を取得し、商号をJTRBに変更した。JTRBの2019年12月期は、システム費用などの初期費用を計上したことで営業利益は3億円にとどまったが、中長期的には毎年30億円超の利益貢献ができるポテンシャルを秘めている。JTRBの強みは法人取引にあるが、同社グループのノウハウを融合することで顧客層の拡大を図り、今後はリテール向けの担保ローンやトレードファイナンス等の企業向けローンなどを積極的に推進することで、貸出残高を伸長する計画である。実際、2020年3月の貸出残高は593億円と、グループ入り後順調に増加し、一方、90日以上延滞債権率は0.6%の低位にとどまっている。カンボジアは同社グループにとって6ヶ国目の進出となり、東南アジア金融事業を今後のグループ成長ドライバーと位置付ける、同社の戦略がうかがわれる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)

《YM》

提供:フィスコ

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