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一部不動産会社が猛反発、LIFULLの料金値上げの「なぜ」

特集
2020年6月30日 11時40分

株探プレミアム・リポート

筆者:高山英聖(Hidemasa Takayama)
専門紙「全国賃貸住宅新聞」記者。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。

「(今回の値上げは)我々顧客に対する挑戦だ」

こう憤るのは、石川県内の2拠点で部屋探し店舗を運営している50代の経営者(男性)だ。その怒りの矛先が向かうのは、日本最大級をうたう不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S(以下、ホームズ)」の料金値上げだ。

ホームズは、不動産の物件検索情報を展開するLIFULL<2120>が運営する賃貸および販売物件の検索サイト。同サイト関連事業が稼ぎ出す収益はLIFULL全体の75%を占め、同社の屋台骨に当たる。

■LIFULL<2120>が運営する物件検索サイト「LIFULL HOME'S」の抜粋画面

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ホームズと同様のサービスには、リクルートホールディングス<6098>系列が運営するSUUMO(以下、スーモ)」がある。反発が広がれば、ホームズからスーモなどに、物件を掲載する顧客が流れる恐れもある。

コロナ騒動で昨年末時点から一時は5割下落したLIFULLの株価は足元では20%近い下落と5分の3戻しとなったが、日経平均株価が5%程度のマイナスまで回復しているのと比べると、大きく出遅れる。

同社株が景気敏感の不動産セクター関連であるとの要因もあるが、収益源であるホームズをめぐる顧客の反発が上値を重くしている可能性もある。ホームズをめぐる混乱の背景を探った。

■日経平均株価とLIFULL、不動産仲介のAPAMANのパフォーマンス比較

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注:2019年12月末=0%

単価倍増の大幅値上げに

ことの発端は2019年10月だった。ホームズの運営会社であるLIFULLが「反響課金」と呼ぶ料金の値上げに踏み切ったのだ。この耳に馴染みにくい名称の料金は、ホームズに物件情報を掲載する仲介会社などが、LIFULL側に支払うもの。料金が発生するのは、ホームズで物件を探す利用者が、資料請求や内見の希望など必要事項を入力して送信ボタンを押した場合、もしくは電話で問い合わせた場合。課金は問い合わせ1件ごとに発生する。

課金の計算式は、「閲覧者が興味を持った物件の月額家賃」×「料率」。例えばその物件の家賃が8万円なら、「8万円×料率」になる。仮に料率が1%なら800円、10%なら8000円が、問い合わせ1件ごとに課金される。今回の反響課金の値上げは、この料率の引き上げに当たる。

値上げ前の料率は4~5.5%だったのを、19年10月から9.5%と、ほぼ倍に引き上げた。この大幅な料率アップに、自転車操業の経営を強いられる地場の中小・零細企業が反発の声を挙げている。

彼らが反発する背景には、値上げの大きさもあるが、現状の集客実績が大幅値上げに見合っていないという思いがあるからだ。端的には、ホームズからの集客力がここ数年、ライバルのスーモと比べて劣っているという。

■ホームズにある物件ページの問い合わせ欄の抜粋

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北海道の賃貸ショップでは今年2月の反響数がスーモの4分の1に

北海道札幌市の中心部で賃貸ショップを運営する零細企業のA社長(30代前半・男性)は、「集客の数は2年前から徐々にスーモに遅れを取り始めた」と明かす。

同店が常時利用しているサイトは「ホームズ」と「スーモ」の2つ。賃貸物件300件をそれぞれのサイトに掲載している。引っ越しシーズン真っただ中である2月、スーモとホームズの利用者からの反応を比べると、スーモが62件。それに対しホームズはわずか14件と、スーモの約4分の1だった

A社長は「費用対効果は、スーモの方が格段上にある」と語る。ホームズのパフォーマンスが悪化しているという不満を感じていた中で、今回の料金改定が実施され、実施後も状況は変わらないままだった。

同社の販管費のうち部屋探しサイトに支払う経費は2割を占めている。そのためクリック単価が倍増する料金改定は、同社にとって、今後の集客戦略を練り直さなければならないほどのインパクトがある。

こうした事情から、A社長は「それぞれのサイトに毎月15万円ずつ払っているが、これからはホームズに載せる物件数を減らして、スーモの比率を引き上げたい」と語る。

同様の声は他にもある。愛知県内で10店舗以上運営する企業の経営者は「利用を継続するかどうかは現場の店長に任せている。しかしホームズの掲載件数はこれ以上増やすな、とは指示している」と話していた。

■LIFULL<2120>のセグメント別売上高の状況(2019年9月期時点)

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先に紹介したようにLIFULLの中核事業は「ホームズ」を介した送客ビジネスだ。掲載しているのは賃貸物件と売買物件の両方で、サイトに訪れた学生や社会人が目当ての物件を見つけると、物件掲載元の不動産賃貸会社に問い合わせて個別に手続きを進める。

利用者は無料で物件情報を検索できるため、収入源は不動産賃貸会社から得る「物件掲載料」や「反響課金」になる。2019年9月期でホームズ事業の顧客数は同時点で2万6252件。月間平均単価は9万4130円となっている。

「使い放題」化で情報量充実、実質単価は値下げを狙う

一連の反発について、LIFULLはどう受け止めているのか。HOME'S事業本部の平田保昌氏は「一概に値上げだけが理由とは断定できないが、一部から反発があることは認識している」と語る。その上で「小規模事業者等、掲載物件数が少ない顧客は、問い合わせ(反響)課金でなく、掲載ベースの課金プランに切り替える選択肢も用意している」とする。

掲載ベースの課金プランとは、掲載枠を売る料金モデルのことだ。問い合わせ課金は関係なく、掲載枠の数に応じて不動産賃貸会社が広告料をLIFULLに支払う仕組みで、無制限で掲載できる課金ベースよりも料金負担をコントロールしやすく、割安におさえられる。

しかし掲載枠ベースの料金プランは最大50枠までと少ない。地方で1~2店舗だけ運営している小規模事業者でも、賃貸仲介業を本業としている場合、月の出稿件数が50件未満になるケースはまれだ。少なくとも月100~300件はポータルサイトに出稿している。掲載枠ベースのモデルが、どれだけ不満を持つ顧客の受け皿になっているかは、やや疑問が残る。

LIFULLが値上げに踏み切ったのはなぜが。同社の井上高志社長によれば、サイトの価値を向上させることで、「不動産賃貸会社、ユーザー、当社」の3者がウィンウィンになる体制を強化するためだという。今年5月の20年9月期の中間決算発表の場で全国賃貸住宅新聞の質問に回答した。

映像などの情報量の拡大などで、検索で上位表示を狙う

情報量の充実を促進させるために実施したのが、ここ数年さまざまな分野で拡大している「使い放題」サービスの取り込みだ。サイトの価値向上とは、最終的に検索エンジンの最適化(SEO)によって検索順位を上げることで、サイトを訪問したユーザーから問い合わせボタンをクリックしてもらえる循環をつくることだ。

そのためには、物件掲載ページの充実化が欠かせない。その手段として、単価を大幅に引き上げる代わりに、これまで別料金で提供していた「オプション機能」を使い放題にしたのだ。オプション機能には「スタッフコメント機能」「360度のパノラマ映像機能」など様々ある。サイトの利用者にとっては物件イメージをつかむ手がかりが増える。

しかし仲介会社にとっては追加料金が発生するため、これまで利用企業は一部にとどまっていた。こうした状況を打破する策として、使い放題にして各社のオプション利用率を飛躍的に高め、物件に関する情報を格段に増やすことを目論んだ。

情報量が豊富な物件ページが増えれば、利用者は問い合わせ前の閲覧段階で申込の可否を判断しやすくなる。掲載元の仲介会社と不必要な連絡を交わさなくて済み、目当ての物件だけに問い合わせることができるだろう。

利用者からの反響の精度が上がれば、仲介会社のコストパフォーマンスも向上する。さらに仲介会社にとっては、1物件ごとにオプション付加の取捨選択をする手間がなくなるメリットも生じる。

またLIFULLにとっても、同社の営業部門が仲介会社にオプション機能の利用してもらうためにかける時間を簡略化できる。営業社員は、より生産的な業務に従事できる。

こうした好環境が生まれれば、井上社長の目指すウィンウィン関係を構築できる。

■ホームズのサイトに掲載されている360度パノラマ映像の例

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現状、井上社長の目論見通りに進んでいるのか。20年3月末時点のオプション利用のある物件掲載比率は75%。料金改定前の42%と比べて33ポイント上がったという。その理由を、先のHOME'S事業本部の平田氏は「料金改定の効果」と説明する。

ではそれが収益に着実に反映しているのか。

※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。

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