石油市場に激動の予感、バイデン新政権の誕生は何をもたらすのか? <コモディティ特集>

特集
2020年11月11日 13時30分

石油市場も含めて、金融市場はバイデン新大統領の誕生を歓迎するムードとなっている。米大統領選で現職のトランプ氏は敗北を認めていないが、勝敗は決しており、混乱が長引くことはないとみられている。

●対イランやベネズエラ制裁の変化は石油市場を根底から変える

バイデン新大統領の選挙期間中の発言からすると、石油市場は根底から変わるだろう。バイデン氏は、(イランが合意を遵守するならば)トランプ米大統領が一方的に離脱したイラン核合意に戻ると表明している。制裁が解除されればイラン産の原油が従来のように流通する見通しである。

イランの原油生産量が回復し輸出が上向くなら、コロナショックによる石油需要の落ち込みを吸収しようとしている石油輸出国機構(OPEC)プラスにとって頭を抱える事態となる。理不尽な制裁を課されたイランに生産枠を設定することは難しく、需給バランスが崩れることは避けられそうにない。米国の制裁によるイランの減産規模は日量で約200万バレルである。

対ベネズエラ制裁の行方も注目される。独裁政治が目に余るマドゥロ政権に対して、トランプ政権は経済制裁を重ねてきた。民主化を目指すトランプ政権の方針を踏襲してマドゥロ政権に対する圧力を維持し、経済的な締め付けを続けるのか、あるいは別の選択肢があるのか。米国が制裁を解除しても、慢性的な資金不足のベネズエラ国営石油会社(PDVSA)が生産量を回復させるのは困難だが、ほぼ八方塞がりの外交関係が変化するならばベネズエラの潜在的な生産能力は無視できない。

●環境、外交、エネルギー……政権交代で多数の焦点

環境問題を考慮すると、シェールオイル開発に不可欠な水圧破砕法(フラッキング)の規制も焦点の一つである。米国を世界最大級の産油大国に押し上げた革新的な技術の規制は、コロナショックで甚大な被害を受けた石油産業を崩壊させかねない。フラッキングの全面的な禁止はなくとも、連邦政府が所有する土地での利用は制限されるのではないかと懸念されている。バイデン新大統領が導入する可能性のある規制が呼び水となり、水圧破砕法に対する批判が強まっていくと、米国の石油産業は岐路に立たされそうだ。

バイデン新政権はサウジアラビアやロシアと距離をとるだろう。トランプ米大統領は繰り返し原油高をけん制してきたが、OPECプラスとの間柄は近く、仲違いしたサウジとロシアの関係修復を手助けしたほか、OPECプラスの協調減産の成立を後押しした。一方で、選挙中のバイデン氏はロシアを世界で最も深刻な脅威であると名指ししている。ジャーナリストのカショギ氏を殺害したサウジアラビアをトランプ米大統領はかばったものの、産油大国であり米軍事産業の上得意であるサウジとバイデン新政権はどのように接するのだろうか。

バイデン大統領のクリーンエネルギー政策にも注目しなければならない。ガソリンなどの化石燃料中心の社会から環境負荷の低いエネルギーに本当にシフトしようとするならば、石油を社会経済の中心から退ける必要がある。石油を経済的に排除するには価格を大きく引き上げるのが手っ取り早いが、バイデン新大統領がどこまで本気なのかわからない。

政権交代に伴う焦点は多数あるうえ、いずれも材料として大きすぎて単純に消化できないものばかりである。短絡的に織り込んで値動きにしようとしても不可能であり、とりあえずは新政権の始動を待つしかない。ただ、強気か弱気か方向も読めないが、大きな流れが生まれそうな予感はする。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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