はやぶさ2帰還で注目度アップ、「宇宙開発関連株」は新ステージへ飛翔 <株探トップ特集>

特集
2020年12月9日 19時30分

―熱を帯びる各国の開発競争、政府は宇宙産業の育成目指し研究開発を推進―

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されたカプセルが地球に帰還した。カプセルには小惑星リュウグウのかけらなどが入っているとみられ、これから詳細な分析が行われる。探査機が天体から物質を持ち帰る技術は日本が世界をリードしているが、月探索では米国や中国に大きく出遅れているのが実情。文部科学省が21年度予算案の概算要求で宇宙関連として2809億円(20年度予算は1544億円)を計上するなど、政府が宇宙産業の育成に向けて研究開発を推し進める構えをみせていることもあり、 関連銘柄に改めて注目してみたい。

●偉業を支えた日の丸技術

「はやぶさ2」は2014年12月に打ち上げられ、18年6月に小惑星リュウグウに到着。19年2月と7月の2度にわたって着陸に成功したあと、同年11月にリュウグウを出発し、今年12月6日に帰還した。今回のミッションは小惑星表面の物質を採取することで、そのほかにも小型探査ロボットによる小天体表面の移動探査や複数の探査ロボットの小天体上への投下・展開、人工クレーターの作成など7つの世界初を達成し、日本の存在感を示した。

約52億キロメートルという航海を支えたのが、NEC <6701> のイオンエンジンや明星電気 <6709> [東証2]の近赤外分光計、日本航空電子工業 <6807> の高精度サーボ加速度計、古河電池 <6937> のリチウムイオン電池などの民間技術だ。このほかにもセック <3741> の惑星探査機搭載エンベデッドシステム、住友重機械工業 <6302> のサンプル採取装置、日油 <4403> グループの日油技研工業が提供しているサンプル採取用火工品が利用され、アイネット <9600> は探査機の開発・運用に参加している。

●民間企業の取り組み活発化

“最後のフロンティア”といわれる宇宙を巡って各国の開発競争は一段と熱を帯びており、中国の国家宇宙局は今月3日に月表面の土壌サンプルの採取に成功したことを明らかにしたほか、米航空宇宙局(NASA)は月探査「アルテミス計画」を推進している。宇宙開発が活発化している背景には、安全保障上の重要性が高まっていることに加え、全地球測位システム(GPS)など衛星データを活用した各種製品・サービスが日常生活に定着していることが挙げられる。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させる「Society5.0」を実現するためには通信衛星をはじめとする宇宙システムが不可欠。今後は衛星が取得した温室効果ガス発生量のデータを気候変動問題の対策に生かす動きなども更に進みそうだ。

ただ、政府が6月に閣議決定した新たな宇宙基本計画では、米国などの巨大資本によるゲームチェンジが進むなかで国内の宇宙機器産業の遅れを指摘しており、民間企業を一段と活用する仕組みづくりが求められている。こうしたなか、直近ではルネサスエレクトロニクス <6723> が宇宙用途向けに優れた耐放射線性能を実現するコンバーターを発売したほか、エア・ウォーター <4088> は10月にベンチャーのSPACE WALKER(東京都港区)と宇宙飛行機の設計・開発・運用で協力すると発表。セーレン <3569> は8月に福井大学などと「イオンビームを生かした宇宙産業育成」の契約を締結し、10月に人工衛星用部品の宇宙線耐性評価試験を実施した。

これ以外では、宇宙太陽光利用システム向けレーザー用YAGセラミックスをJAXAに提供している神島化学工業 <4026> [東証2]、ロケットの流体解析を行う菱友システムズ <4685> [JQ]、ロケット用姿勢制御装置などを手掛けるシンフォニア テクノロジー <6507> 、宇宙開発用水晶発振器を扱う日本電波工業 <6779> 、航空・宇宙分野などで利用されるハイブリッドICを展開する日本アビオニクス <6946> [東証2]などにもビジネス機会が広がりそうだ。

●日本が主導するデブリ対策

宇宙開発の進展に伴い問題となっているのが、地球周回軌道に存在する役目を終えた人工衛星やロケットの破片だ。この宇宙ゴミ(スペース・デブリ)の回収技術で先行しているのが日本で、政府が11月に開いた関係府省会議で井上信治科学技術相は「日本がリーダーシップを発揮することには大きな意義がある」と述べた。

アストロスケールホールディングス(東京都墨田区)は21年3月にスペースデブリ除去実証実験衛星を打ち上げる予定で、同社には清水建設 <1803> やヒューリック <3003> 、スパークス・グループ <8739> 子会社のスパークス・イノベーション・フォー・フューチャー、アイネットなどが出資している。

また、スカパーJSATホールディングス <9412> がデブリをレーザーで除去する衛星の設計・開発に着手しているほか、川崎重工業 <7012> はデブリ除去の事業化に向けて三井物産 <8031> 及び東京海上ホールディングス <8766> と協業。日東製網 <3524> は無結節網技術を生かし、デブリ除去システムに必須の資材である「導電性網状テザー」と呼ばれる、電気を通すひも状の網の開発にJAXAと共同で取り組んでいる。

●宇宙生活関連銘柄にも注目

米国の宇宙ベンチャー、スペースXが11月に新型有人宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功した。民間による宇宙旅行への第一歩となることから、宇宙での生活に関連する銘柄にも注目したい。ハウス食品グループ本社 <2810> の「レトルトカレー」や日清食品ホールディングス <2897> の「チキンラーメン」、理研ビタミン <4526> の「わかめスープ」などが宇宙日本食として認証されているほか、ユーグレナ <2931> はJAXAの宇宙食開発プロジェクトに参加している。

このほか、窪田製薬ホールディングス <4596> [東証M]はNASAのディープスペースミッション向けに超小型眼科診断装置の開発受託契約を締結済み。ポーラ・オルビスホールディングス <4927> とANAホールディングス <9202> は宇宙でも使える化粧品を共同開発するプロジェクト「CosmoSkin」に取り組んでいる。

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