アンジェス Research Memo(5):先進ゲノム編集技術を持つEmendoを買収

特集
2021年3月25日 15時15分

■Emendoの買収について

アンジェス<4563>は、2020年12月に先進のゲノム編集技術を有する米国のEmendoを完全子会社化したことを発表した。Emendoについては2019年3月に最初の出資を行い、その後段階的に追加出資を実施して約40%の株式を保有し、持分法適用関連会社としていたが、残り約60%の株式を有するEmendo出資者に対して、間接的に第三者割当による新株式を発行し(約1,005万株、発行価額1,108円)、株式交換する形で取得した(一部現金での支払いあり)。

Emendoが保有する先進のゲノム編集技術「OMNITM(オムニ)」と、同社がこれまで遺伝子治療薬の開発で培ってきたノウハウや遺伝子治療プログラムを融合することで、ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療用製品の実用化及び適応拡大の加速化を目指していく。また、「OMNITM」のプラットフォーム技術を他社に提供し、ライセンスフィーを得ていくことも検討していく。Emendoを子会社化したことで、「遺伝子治療プログラムと次世代ゲノム編集プラットフォーム技術を有する世界初の企業」となり、遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指す体制を構築したことになる。

Emendoののれん評価額は約227億円となっており、同社にとっては大きな経営判断だったと言えるが、Emendoの「OMNITM」技術によって治療可能な遺伝子疾患の領域は広く、潜在的な市場規模は1.1兆円規模になると同社では推計している。現在、Emendoでは血液系、眼科、皮膚科系、がん疾患領域において複数のパイプラインの開発を進めており、今後の開発状況の進展が注目される。

なお、ゲノム編集とは、特定の遺伝子(DNA配列)をDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)によって特異的に切断、編集、改変する技術のことで、ゲノム編集により特定の遺伝子の機能を失わせたり、疾患の原因となっている遺伝子の異常を修正する方法が複数開発されてきた。なかでも、CRISPR/Cas9は従来技術よりも短時間で簡単に標的となるDNA配列を切断できる革新的な技術として評価されており、その開発者であるエマニュエル・シャルパンティエ教授とジェニファー・ダウドナ教授が、2020年のノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しい。

Emendoでは、これまで一般に用いられてきた既存のCas9ヌクレアーゼとは異なる新規のRNA誘導型ヌクレアーゼ(ガイドRNAがゲノム上の標的配列にCas9ヌクレアーゼを誘導する)を探索し、これらをゲノム編集に応用する独自の技術プラットフォーム「OMNITM」技術を確立している。Emendoが開発するOMNITMヌクレアーゼの長所は、ターゲット遺伝子ごとにヌクレアーゼが最適化されるため、高い効率と精度を持ってゲノム編集ができる点にある。ヒトでの遺伝子疾患治療薬の開発では、対立遺伝子特異的なゲノム編集を高精度に行う必要があったが、「OMNITM」はそのブレイクスルーとなる技術として注目される。このため、今後は「OMNITM」のプラットフォーム技術の利用を希望する企業も出てくることが予想され、こうした企業に対してライセンス契約を行い、ライセンスフィーによって収益を獲得していくことも検討している。今後考えられる適応症としては、血液系や眼科、皮膚科、がん疾患以外にも、神経系、免疫疾患、循環器系のほか、治療法のない常染色体顕性遺伝子疾患、厳密な発現調節を要する遺伝子疾患など多岐にわたる。

遺伝子治療薬の製法には、「コラテジェンR」のように遺伝子導入のベクターとしてプラスミドを用いたもの、人に対して無害なウイルス(アデノウイルス、センダイウイルスなど)をベクターとして用いたもの、ゲノム編集技術を用いたものと大きく3つの方式があるが、このうちゲノム編集技術を用いた遺伝子治療薬に関してはまだ世界でも上市実績がなく、「OMNITM」技術の活用により大きく前進することが期待される。同社では、Emendoが取り組んでいる複数の開発パイプラインのうち、遺伝子疾患を対象とした品目について共同開発を進めるべく、今後、両社で計画を策定していく予定となっている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《NB》

提供:フィスコ

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