スイスフランに先高観【フィスコ・コラム】

市況
2021年3月28日 9時00分

代表的な安全通貨のスイスフランに先高観が強まりつつあります。世界経済が新型コロナウイルスの打撃からの回復ペースを速めており、安全通貨は本来なら下落するはずです。が、今後の米ロ対立が見込まれるため、フランに資金が流入しそうです。

3月に入りフランの対ユーロ、対ドル相場が一時上昇に転じました。米長期金利の上昇を背景に世界的な株安でリスク回避ムードが広がり、フランや円などが選好された、というのが最も納得できる理由ではないでしょうか。実際、16-17日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)のハト派姿勢を受け米10年債利回りはいったん下押しされ、株価が反転するとフランは円とともに弱含む場面もありました。

ただ、市場関係者の間では、アメリカとロシアの緊張が高まり始めたのも足元のフラン高を支援する要因との見方が浮上しています。昨年11月の米大統領選で、ロシアのプーチン大統領がバイデン大統領(当時は民主党候補)に対する中傷などを容認し、間接的に選挙に介入した、とアメリカの国家情報長官は3月16日に発表。近く対ロ制裁に踏み切るとの警戒感がフランを押し上げたといいます。

それまでのフランは、最弱通貨が指定席でした。というのも、世界がコロナ禍の打撃から立ち直り、安全通貨への需要は相対的に弱まるとみられていたためです。イタリアの政局流動化で、マーケット・フレンドリーであるドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が首相に就任したこともその要因となりました。加えて、低金利のフランを活用したキャリー・トレードの増加もフラン売り要因として見逃せません。

欧州でのコロナ再拡大にもかかわらず、スイスは企業景況感の改善で、来年には危機前の水準に戻すとみられています。スイス国立銀行(中銀)は回復をサポートするため今後も通貨安政策を堅持する意向で、安全通貨として売られやすい地合いが続くでしょう。半面、1月に発足した米バイデン政権は対ロ強硬政策を進める方向のため両国の緊張は避けられず、買いが強まる可能性は否定できません。

バイデン氏とプーチン氏は、さっそくバトルを繰り広げています。バイデン氏は3月17日のテレビインタビューで、ロシア政府による反体制派指導者ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件を念頭にプーチン氏を「人殺しだ」と発言。それに対しロシア側は猛反発しており、両国の関係悪化が懸念されています。バイデン氏は、トランプ前大統領が対ロ政策で国益を軽視したと批判してきた経緯もあります。

米ロ両国の関係は冷戦後、2000年を挟んで再び悪化。ウクライナ問題による欧米のロシア制裁で関係悪化は決定的となりました。これまで両国が緊張を抑えてきた背景には、ドイツのメルケル首相の存在もあります。しかし、同首相が秋までに引退し、表舞台から姿を消してしまえば両国関係は再び冷え込む見通しです。その意味では、ドイツの首相選びもフランの値動きに影響を与えそうです。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

《YN》

提供:フィスコ

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