植草一秀の「金融変動水先案内」 -警戒論と楽観論のせめぎ合い-

市況
2021年6月26日 8時30分

第61回 警戒論と楽観論のせめぎ合い

●FOMC

6月15-16日のFOMC(連邦公開市場委員会)で金利見通しが修正されました。筆者は3月のFOMC時点から6月のFOMCが焦点になることを予測してきました。FOMCが提示する金利見通しはFOMCメンバー各自の金利見通しをドットチャートに表示したものです。FRB(米連邦準備制度理事会)予測として示されるのは、多数メンバーによる見通しの中央値です。したがって、2023年末まで利上げなしという見通しが示されても、その内容は千差万別なのです。

本年3月のFOMCでは2023年末まで利上げなしの見通しが維持されました。しかし、昨年12月のFOMCと比較すると、2023年末までに利上げありと見通すメンバーが増加していました。メンバーのなかには2022年中に利上げがあるとの見通しを示した人もいました。

ですから、FOMC見通しを十分に理解するのには、ドットチャートの中身の変化を見ることが必須になります。また、2018年末から2019年央にかけては、よりドラスティックな変化も観察されています。

2018年12月のFOMCでは、2019年に追加的に2度の利上げがあるとの見通しが示されました。このFOMC見通しを受けて内外株価が急落しました。金融危機の再来が警戒されたのです。

この危機に対応したのがFRBのパウエル議長でした。年明けの1月4日に、金融政策を柔軟に見直す考えがあることを述べました。この発言を契機に内外株式市場の流れが転換したのです。FRB議長に求められる資質には多くのものがあります。高度な専門性や経済学の知識は必須ですが、何よりも重要なことは危機対応能力です。

●2019年の利下げ

2019年にFRBは政策スタンスの全面的な修正を行いました。トランプ前大統領の対中国強硬政策で株価が急落すると、パウエル議長は6月に利下げの可能性を示唆しました。2018年末には2019年内に2回利上げの見通しを示していたFRBが、一転して利下げの可能性を示唆したのです。

実際、FRBは2019年7月から11月にかけて3回のFOMCで連続利下げを決定しました。2018年にFRB議長に就任したパウエル氏は当初、インフレ対応に甘くなることが警戒されていました。利上げを嫌うトランプ前大統領によって登用された事情があるため、適切なインフレ対応ができないのではないかとの不安が広がったのです。

これに対してパウエル議長は2018年に4回の利上げを断行して市場の不安心理を払拭しました。論より証拠。明確な行動で市場の疑心暗鬼を取り除く。見事な政策対応だったと言えます。ただ、利上げ路線が強まり、2018年末には金融政策の引き締め過ぎが強く警戒されてしまったのです。

この事態に対応してFRBは政策スタンスを軌道修正。2019年後半の3回連続の利下げ実行に至りました。パウエル議長は弁護士出身で元々エコノミストではありません。しかし、難しい金融政策のかじ取りを見事に演じていると言っても過言でありません。

このパウエル議長が来年2月に1期目の任期満了を迎えます。トランプ前大統領が起用したという点で共和党色が強いのは事実ですが、余人をもって代えがたいと言えると思います。

●パウエル議長の去就

パウエル議長は2020年2月以降のコロナパンデミック危機に際して、一気にゼロ金利政策を実行するという行動を示しました。2020年2月から3月に世界的な株価大暴落が生じたのですが、3月下旬以降は株価が急反騰に転じました。トランプ前大統領の大規模な財政政策発動とパウエルFRB議長による果断なゼロ金利政策採用が、世界経済の危機脱出を誘導したと言って間違いありません。

このような過去の経緯を踏まえれば、FRBの金利見通しが急変したことは驚くにあたりません。現在のバイデン政権では財務長官にイエレン元FRB議長が起用されています。イエレン-パウエル体制でFRBは円滑に運営されていました。いまは立場を変えてイエレン氏が財務長官、パウエル氏がFRB議長に就いています。このコンビに勝る組み合わせはないように思われます。

バイデン大統領はパウエル議長の続投に関して言質を与えていませんが、パウエル議長続投が金融市場にとっては最適であると思われます。その場合、イエレン財務長官の意向が大きく影響することになると思われます。

米国経済は堅調でインフレ率が大幅に上昇しています。しかし、このインフレ率の上昇は一過性のもので、2022年には落ち着きを取り戻すと見られています。米国の長期金利は落ち着いた推移を示しており、この結果としてFOMCショックでの株価下落は一過性の現象になりつつあります。

●大きな仮説の重要性

しかしながら、2020年3月以降の株価急騰局面が今後も継続すると考えるのは早計です。筆者が発行しているレポートでは、金融市場に無視できない重要な変化が生じていることを示しています。これまでの株価急騰を支えていた基本的要因に大きな変化が観察され始めているのです。

コロナが収束に向かうとの期待感が強まっていますが、この点についても過度の楽観は禁物です。ワクチン接種の進んだ英国で行動規制が大幅に緩和されましたが、その後、新規陽性者数が急増しています。インド変異株が感染拡大の中心に置き換わり、英国で感染が急激に再拡大しているのです。

英国での感染が縮小した主因はワクチンではなく、強いロックダウン措置であるとの見方もあります。このロックダウン措置が緩和されて感染再拡大に至ったとの見方です。

英国のアストラゼネカ社製ワクチンの南アフリカ変異株に対する有効性の検証で、有効性が10.4%にとどまったとの正式な学術論文も発表されています。変異株の一部がワクチンの有効性を引き下げる可能性が指摘されています。

日本では6月18日までの集計で、ワクチン接種後に356人もの方が急死したことが報告されています。政府は因果関係を否定しますが、元気に過ごしていた高齢でない方がワクチン接種直後に死亡する事例では因果関係を疑わざるを得ません。

ワクチンには重大な問題が付随していると考えられます。したがって、かなり多くの国民がワクチン接種を忌避することが予想されます。このなかでの五輪の開催強行は多くの混乱をもたらすことになるでしょう。金融市場の先行きは依然として不透明であると言うべきです。

(2021年6月25日記/次回は7月17日配信予定)

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