夏枯れの時期に負けにくい「サマー・ストック」銘柄はどれ?
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第69回
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「利益は急回復、「底打ち反転期待銘柄」を探せ」を読む
まもなく8月に入ります。投資家の中には、「夏枯れ」を避けて、投資を控える人もいるでしょう。
実際に、過去10年程度のTOPIX(東証株価指数)のパフォーマンスと出来高を月ごとに見ていくと、確かに夏場は出来高が減少するうえ、特に8月は株式市場が突出して軟調であることが分かります。
■TOPIXの月ごとのリターンと売買代金(過去10年の平均値)
出所:データストリーム。注:▲はマイナス
こうした冴えない状況になるのは、需給やイベント面の材料が薄れることがあります。需給面では7月から8月にかけては国内外の機関投資家が夏季休暇に入り、投資額が抑えられやすくなります。
イベント面では、政治や経済に絡む主要な行事は年後半や年度末に集中し、谷間に位置する夏場は投資需要が喚起されにくい面もあるでしょう。
コロナ感染が再び広まっている現状を踏まえると、今年の夏枯れ期は、例年以上にパッとしなくなる可能性があります。では、無理をしてまで日本株を調査・物色して投資する価値はないのかというと、当然そんなことはありません。
「夏枯れ」と同時に「サマー・ストック」もある
夏枯れ相場と同じように、夏場において語られる株式市場の風物詩があります。それが「サマー・ストック」です。
真夏の気温の上昇などに伴って、売上や利益が伸びる業種に属する銘柄のことで、この憂鬱な夏枯れの時期にテーマ性を持って上がりやすい銘柄として定義されます。
たとえば、清涼飲料水やビール、エアコン関連などの銘柄が有名で、誰にでも容易にイメージしやすいと思います。
今年は全国的に7月の半ばに梅雨明けして以降、各所で猛暑を超える「酷暑」といっても過言ではないほどの暑さに見舞われているため、このサマー・ストックへの投資がさらに妙を増す可能性があるかもしれません。
一方で、年によって程度の差はあるにせよ近年の我が国は、毎年のように夏は猛暑に襲われています。この時期に、気温が高くなることで発生する需要の増減に対して株価が素直に反応することに、懐疑的な声も多く聞こえて来そうです。
2つのファクターで、サマー・ストックを検証
サマー・ストックはあるのかないのか? 「論より証拠」と2つの基本的なファクターで検証しました。。
1つ目は、単純に夏場の株価リターンの傾向を見ます。ただし、株式市場全体が外生的なショックによって振らされる場面では、動きに引っ張られて個々の銘柄の効果を可視化できない恐れがあるので、TOPIX相対リターンがプラスかマイナスかで、月ごとの勝率を定義していきます。
2つ目は、売上高の予想成長率の傾向を見ます。夏場に売上高の予想成長率が高くなる"癖"のある銘柄を特定できれば投資のヒントとなるでしょう。
ここで、重要なのは、証券会社のアナリストによる予想成長率を用いることです。彼らが夏場に売上高成長率を高く見積もらなければならない(≒上方修正しなければならない)としたら、それは機関投資家にアドバイスなども行う分析のプロであっても事前に夏場の業績見通しの上振れが織り込めていないことと同義です。
ここではアナリストが出した予想売上高成長率を標準偏差(年ごとのばらつきの大きさ)で除した値を用い、月ごとに平均します。単年度の特別な上振れ(外れ値)によって成長率の平均値が歪められてしまう可能性を排除するためです。
分析の条件は、株価、売上高ともに過去20年間の月次のデータを用い、母集団はTOPIX構成銘柄(売上高の場合はコンセンサス予想が取得できるもの)とします。売上高成長率は12カ月先のコンセンサス予想を使用しています。
なおサマー・ストックの「サマー」の定義ですが、梅雨上げが例年7月半ばから後半であること、そして足元はもう7月末に差し掛かっている段階にあることを踏まえ、8月の株価の勝率が高い銘柄と、8月に売上高成長率が最も高くなる銘柄をそれぞれ抽出して観察します。
また、分析結果の信頼性を担保するため、過去15年以上のサンプルデータが取得可能な銘柄に対象を限定しています。
1つ目の株価リターンでは、8月の勝率が75%以上を抽出
まずは、株価リターンからです。次ページに、8月の勝率が75%以上、つまり4年のうち3年は勝つ(TOPIXの相対リターンがプラス)銘柄を抽出しています。
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