デリバティブを奏でる男たち【1】 アルケゴス・キャピタルのビル・フアン(後編)

特集
2022年1月14日 10時30分

◆トータル・リターン・スワップとは

ビル・フアン率いるアルケゴス・キャピタル・マネジメントが、金融機関各社との取引の際に利用していたトータル・リターン・スワップとは、どのようなデリバティブなのでしょうか。スワップ取引ですから、何かと何かを交換することを意味しますが、この場合、その名の通りトータル・リターンと手数料を交換します。難しく考える必要はありません。なぜなら、仕組みとしては日本の証券会社で行う信用取引とほとんど同じである、といえるからです。

【タイトル】

日本の信用取引の場合、担保として委託証拠金を預け、その約3.3倍の資金(あるいは株券)を借り入れて取引することができます。つまり、レバレッジは最大で約4.3倍(=委託保証金+借入資金)ですが、いくら委託証拠金があっても1人の投資家が構築できる最大取引額は、各証券会社の規定によって決められています。また、借入資金(あるいは株券)に対する金利(あるいは手数料)も各社の規定によります。

しかし、トータル・リターン・スワップの場合、レバレッジや金利、手数料、あるいは最大取引額などは、投資家と金融機関との話し合いによって決まります。言わば、オーダーメイドの信用取引と考えられます。また、取引によって取得した銘柄が大量であれば、日本の信用取引の場合、投資家に金融当局への報告義務ならびに開示義務が生じます。しかし、トータル・リターン・スワップでは、投資しているのはあくまで金融機関ですので、報告義務や開示義務は金融機関に生じ、投資家(この場合はアルケゴス)は取引内容を帳簿に載せる必要もありません。

また、ヘッジファンドであれば定期的にポジションの報告義務や開示義務が生じます。ところが、ファミリーオフィスであるアルケゴスには開示義務も課せられていないため、各金融機関はアルケゴスに対して他の金融機関がどのくらいの規模のポジションを持たせていたのか、全く知り得なかったわけです。

このスワップを通じてアルケゴスは気前よく高額の手数料を支払っており、金融機関にとってアルケゴスは最上位の得意客であったようです。そして、アルケゴスはその立場を利用してレバレッジを高め、巨額のポジションを構築していったのです。

◆ビル・フアンの経歴

このアルケゴス・キャピタル・マネジメントを運営するビル・フアンとは、一体どのような人物なのでしょうか。彼は韓国名をファン・ソングクといい、1964年に韓国で生まれました。

父親はキリスト教ホーリネス系教団の牧師、母親は同教団の宣教師であり、彼自身も敬虔(けいけん)なクリスチャンとして、キリスト教関係の宣教団体や慈善団体への寄付を行う「グレース・アンド・マーシー財団」を創設したほか、神学校の理事なども務めています。

高校3年生の時に家族と共にアメリカへ移住。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の経済学部を卒業後、ペンシルベニア州ピッツバーグのカーネギーメロン大学でMBA(経営学修士)を取得しました。

1990年に韓国の現代証券ニューヨーク支店に株式営業マンとして入社、3年後に香港のプレグリン証券アメリカ法人に転職して株式ブローカーとして勤務します。そして、ヘッジファンド界の巨人と言われたジュリアン・ロバートソン率いるヘッジファンド、タイガー・マネジメントを担当するのです。彼は1996年にタイガー・マネジメントにアナリストとして入社します。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


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