デリバティブを奏でる男たち【7】 ポイント72アセットのスティーブン・A・コーエン(後編)

特集
2022年1月14日 13時30分

◆デルでもインサイダー取引疑惑

2013年に発覚したSACキャピタルによるインサイダー取引は、アイルランドのバイオ医薬品メーカーであるエランと米大手医薬品メーカーのワイス(2009年にファイザー<PFE>が買収)だけではありませんでした。実はそれと時を同じくして、コンピューター・テクノロジー企業であるデル<DELL>を巡っても同様の取引が行われていたのです。

SACキャピタルの関連組織・CRイントリンシックのハイテク部門のアナリストが、デルの粗利率は市場の期待を下回りそうだ、との情報を得ます。このアナリストはコーエンやコーエンにデルを推奨していたプロトキンなどに、その内容をメールしました。その後にSACキャピタルはデルの持ち株を全て売却し、空売りまで仕掛けて640万ドルもの利益を上げます。

【タイトル】

出所: 2008年1月から2008年12月末までの日次データ

こうした経緯がSEC(米国証券取引委員会)やFBI(米連邦捜査局)の数年にわたる調査によって発覚し、CRイントリンシックのポートフォリオ・マネージャーやハイテク部門のアナリストらがインサイダー取引容疑で逮捕されたのです。

◆追い詰められなかった捜査当局

SACキャピタルもインサイダー取引に関する証券詐欺と有線通信不正行為などで起訴され、エランとワイスの一件で約6億ドル、デルの一件で約1400万ドル、都合6億ドル以上の罰金がSEC(米国証券取引委員会)により科せられました。加えて、捜査当局からの訴追に対する和解金として12億ドルを支払います。

しかし、儲けられそうな情報を漏らさず部下に報告させ、自らのトレードにも反映させていたSACキャピタル創業者のスティーブン・A・コーエンは、これらの問題で逮捕されることはありませんでした。コーエンがインサイダー情報を聞いてトレードした、という確かな証拠が得られなかったのです。

特にデルの場合、SACキャピタルの担当者がコーエンにメールを送り、電話までしています。その直後からコーエンがデルを売却し始めたところまでの状況証拠は揃っていました。しかし、これだけで事前にメールでインサイダー情報を確認した、あるいは事前にインサイダー情報を電話で聞いた、とまでは言い切れなかったようです。結局、追い詰められなかった米捜査当局はコーエンをインサイダー取引による起訴でなく、社員の監督不行き届きといった軽い罪で起訴するしかなかったのです。

(※続きは「MINKABU先物」で全文を無料でご覧いただけます。こちらをクリック

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


株探ニュース

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

特集記事

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
米国株へ
株探プレミアムとは
PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.