デリバティブを奏でる男たち【11】 新債券王のジェフリー・ガンドラック(後編)

特集
2022年1月14日 15時30分

◆トータル・リターン戦略とは

ジェフリー・ガンドラックが「新債券王」と称されるほど、彼が率いるダブルライン・キャピタルが急成長を遂げた背景の一つとして、MBS(モーゲージ担保証券)を中心とする「トータル・リターン戦略」と名付けられた債券運用手法が挙げられます。

一般的にMBSは公社債よりもデュレーションが短いという特性を持っています。デュレーションとは、元利金の平均回収期間を指すほか、金利変動時には債券価格の変動度合いを表すため、金利感応度を示す指標としても使われます。

MBSは不動産担保ローンの元利金返済をキャッシュフローの原資としますので、下の図のように満期時に元本が一括で返済される公社債よりも、早い段階から元本の返済が進むため、こうした特性が生じます。

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また、金利が低下する時に不動産担保ローンは、より低金利の不動産担保ローンへの借り換えが行われ、繰り上げ返済が増えることから、MBSのデュレーションは一段と短くなります。デュレーションは金利変動時に債券価格の変動度合い表す金利感応指標でもありますので、金利低下時にMBSの価格は上がりにくくなると言えます。しかし、金利が上昇するときには、想定よりも繰り上げ返済が見込まれないため、MBSのデュレーションは長くなり、MBSの価格は大きく下がる傾向があります。

「トータル・リターン戦略」では、ファンド全体の価格変動リスクを抑える、つまりデュレーションを短くすることに主眼を置きますので、金利低下の終わり頃には将来の金利上昇を見込んで、期限前償還の現金を再投資せずにそのまま保有し、ファンド全体のデュレーションの短期化を目指します。一方、金利上昇の終わり頃には将来の金利低下を見込んで、利回りの高いMBSへの再投資で収益の向上を目指します。

ここで問題になるのは、金利低下や金利上昇の終わりのタイミングを見つけることが難しいことですが、その点においてガンドラックは鋭い嗅覚を持っていました。それ故に「新債券王」と名付けられるほど、彼が率いるダブルライン・キャピタルは急成長を遂げることができた、と考えられます。

◆2013年に日本株買いを予測

彼の嗅覚の鋭さは、前編で紹介した「早い段階からサブプライム危機を言い当てた」ことだけではありません。2012年末から「円売り、日本株買い」が当面は最も報われる投資になると主張していました。2013年1月の投資家向け会合では「私のベストアイデアは日本株だ」と言いのけています。

安倍新政権の誕生により日本が強力な金融緩和へと踏み出したことで、これまでとは次元が違う、まさに異次元の金融緩和がデフレ体質の日本にインフレを醸成し、持続的な円安が日本の輸出企業を潤す、と考えたようです。

結果はご承知の通り、継続的なインフレは醸成されませんでした。変動の大きい食品を除くコアCPI(消費者物価指数)は2014年に前年比+2%以上となっていますが、これは消費増税の影響によるものです。しかし、彼の予測通り、ドル円は2012年12月末の1ドル86円台から2015年6月末には125円台まで円安が進み、日経平均株価も同じタイミングで1万0395円から2万0235円へと上昇したのです。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


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