明日の株式相場に向けて=経済重視に舵を切る快感
きょう(31日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比205円安の2万7821円と続落。前日の下げは配当権利落ち分を差し引けば、実質的にはわずかながらプラス圏での着地だったわけだが、きょうも欧米株安を受けて朝方は軟調で始まったものの下げ渋り、前場取引中盤に前日終値を上回る水準で推移する場面もあった。日経平均は下値に対して頑強さを発揮するが、この水準までくると上値も手が出しにくいムードが漂う。
現在、重要な上値のポイントとみられているのが200日移動平均線だ。日経平均株価は3月中旬から下旬にかけて、不透明な環境のなか破竹の戻り相場を演じたが今月29日の終値2万8252円まで浮上したところで、糸を出し切った凧のような状態となった。現在はこの2万8200円台に200日移動平均線が位置している。25日線、75日線と中期波動の分水嶺をことごとくクリアしてきたが、最後に立ちはだかるラスボス的な上値抵抗ラインがこの200日線ということになる。
前日は岸田首相と黒田日銀総裁の会談に思惑が錯綜し、為替市場で急速に円高方向への揺り戻しが生じた。その後、会談の内容がメディアを通じて伝わると、円買いの動きに歯止めがかかり緩やかにドル高・円安の軌道に戻ったが、今一つ方向性が定まらず、目先は1ドル=122円近辺でのもみ合いが続いている。岸田政権が円安を良くないことと考えているのは確かであり、きょうは朝方に米ブルームバークが報じたニュースに市場関係者の関心が向かった。その報道は、「金融庁が地方銀行に対し有価証券の適切なリスク管理と運用体制の強化を要請している」という内容。日銀もポートフォリオへの影響についてヒアリングを開始しているという。
これは表向きには、ロシアのウクライナ侵攻に伴い地政学リスクが高まっていることから、利回りの高い外国債などへ投資する際にはリスク管理を徹底せよという主旨だが、別の角度から見る市場関係者も少なくない。「これは暗に外国債へ投資するポジションを引き下げて、安全な日本国債の比重を高めよというのが真の意味と思われる。今回の管理運用体制の強化は『経営陣が主体となって』という“但し書き”がついているのがミソで、担当者が純粋に運用の有利さで判断して外債を買うのではなく、政府の意向を忖度しろということ。これはいわゆる円安対策だ。」(ネット証券マーケットアナリスト)と指摘する。つまり、「外債売りの日本国債買い」の動きを地銀各社が一斉に進めれば、ドル売り・円買いトレンドが発生し、為替は円高方向に振れる。「今後もこうした政策的な規制を絡めた円安阻止の動きが、折に触れ出てくる可能性がある」(同)という見解が示されていた。
米国ではFRBのタカ派への急傾斜が著しい状況にある。前日発表された3月のADP全米雇用リポートはコンセンサスを小幅ながら上回ったが、今週末予定される米雇用統計も非農業部門雇用者数、失業率、平均時給ともに経済の強さを改めて裏付ける結果となりそうだ。そうしたなか次回の5月FOMCでFRBによる0.5%の政策金利引き上げは既定路線と見る向きが多く、米国株式市場も既にこれを織り込みつつあるようだ。4月はFOMCが開催されないが、「マーケットが気にするとすれば4月6日に予定される3月開催分のFOMC議事録だろう」(生保系エコノミスト)という声がある。インフレに対する見解と量的引き締め(QT)への政策スタンスに耳目が集まる。このころにウクライナ情勢がどうなっているのかは不明だが、地合いが再び波乱を帯びる可能性は否定できない。
ただし、国内に目を向ければ円安云々の話は置くとして、現在の岸田政権は以前よりも安定感が出ている。これは素直にプラスに考えたい。新型コロナ感染者は再び増勢にあるが、市場関係者は「まん延防止等重点措置を解除した後に、内閣支持率が60%を超えた。岸田首相はこれを見て、経済重視の方向に舵を切ることに快感を覚えたはずだ。もう逆方向に舵は切れない。内需株にとっては追い風が意識される可能性がある」(準大手証券ストラテジスト)と、岸田首相に対してしばらく聞かれなかった前向きなコメントも出ていた。
あすのスケジュールでは、3月の日銀短観が朝方取引開始前に開示されるほか、3カ月物国庫短期証券の入札も予定される。海外では3月の財新中国製造業PMI、3月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)のほか、3月の米雇用統計に対する注目度が高い。また、3月の米ISM製造業景況感指数も発表される。(銀)