デリバティブを奏でる男たち【24】 ルネサンス・テクノロジーズのジム・シモンズ(前編)

特集
2022年4月4日 13時30分

◆クオンツ系ヘッジファンドの巨人

前回は、LCHインベストメンツによるヘッジファンド収益ランキング2018年において、全体の運用成績がマイナス410億ドルと厳しかったにもかかわらず、第3位の運用成績を誇ったクオンツ系ヘッジファンド、ツーシグマ・インベストメントを取り上げました。今回はツーシグマや第22回に取り上げたD.E.ショーと並び称されるクオンツ系ヘッジファンドの巨人、ルネサンス・テクノロジーズのジム・シモンズを取り上げます。

前回も触れた通りクオンツとは、企業業績や財務などのミクロ・データや経済指標などのマクロ・データ、あるいは株価や金利、為替などの値動きといったマーケット・データを数学的な手法で解析し、バリュエーション評価や市場価格の変動予測などに利用する手法、もしくはそのような方法を用いる業界関係者や関連部署を指します。

レンテック(RenTech、Renaissance Technologiesの略称)などとも呼ばれているルネサンスは、2021年9月現在の運用資産が1308億ドルと、ツーシグマやD.E.ショーの2倍以上の規模を誇っています。ツーシグマと同様に2020年や2021年の運用成績は上位にランキングされませんでしたが、2018年は第2位、2019年は第21回で取り上げたクリス・ホーン率いる英系アクティビスト(物言う株主)・ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド・マネジメント(TCI)、タイガー・カブのスティーブ・マンデル率いるローン・パイン・キャピタルに次いで3位にランキングされていました。

【タイトル】

出所:各種報道

▼TCIのクリス・ホーン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【21】

https://fu.minkabu.jp/column/1320

▼TCIのクリス・ホーン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【21】

https://fu.minkabu.jp/column/1321

◆数学者ジム・シモンズ

ルネサンスを創業したジェームズ・ハリス・サイモンズ(通称ジム・シモンズ)はもともと米国の著名な数学者でした。その意味ではツーシグマやD.E.ショーの創業者と同様に学者肌ですが、最初からクオンツ・トレードで上手い具合に収益を膨らませることができたわけでなく、そこまでたどり着くのには数々の紆余曲折がありました。

1938年に米国のユダヤ人家庭に生まれたシモンズは、子供の頃から数学者か、科学者になりたいと思っていました。その願い通り、彼は1958年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で数学の学位を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で数学の博士号を取得した後はMITで教職、そしてハーバード大学で研究職に就きます。しかし、学者としての将来が見えてしまったことでシモンズは、もっと刺激的な仕事をして、もっと稼ぎたいという衝動に駆られます。

1964年に米国の国防分析研究所(Institute for Defense Analyses、IDA)へ転職したシモンズは、国家安全保障局(National Security Agency、NSA)を支援するため、ソ連の暗号検知と解読を担当しました。ここでの暗号解読は一見して無意味なデータの中から、統計解析や確率論などといった数学的な手法を使ってパターンを見出す作業だったそうですが、そのためにアルゴリズム(コンピューターに計算させる一連の手順)を組み立てて検証していたといいます。

また、こうした作業が株式トレードに活かされるのではないかと考え、密かにトレード会社を職場の仲間と立ち上げようとしました。しかし、すぐに上司に見つかり、この試みは残念ながら途中で頓挫してしまうのですが、その頃からシモンズは、クオンツ・トレードに可能性を見出し、仲間と研究を重ねていたようです。

しかし、ベトナム戦争が起きたことでIDAに対する世間の風当たりが強くなったため、政府関係者は「戦争好き」ばかりではないと主張すべく、シモンズは戦争に否定的な意見を新聞社に投稿しました。これが運良く掲載され、シモンズは世間から注目を浴びて大満足でしたが、それが元でIDAを解雇されてしまいます。

IDAを離れたシモンズは、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で数学科長に就任します。当時無名だった同校で数学科を立て直すことを学長から依頼され、ヘッドハンター兼マネージャーとしての才能を開花させます。この才能は後にルネサンスにおいても大いに役立ちました。シモンズは優秀な数学者を次々と誘い込み、遂には国内屈指の幾何学研究拠点を築き上げます。その後は幾何学分野の研究を深め、米国数学会の最も栄誉あるオズワルド・ヴェブレン幾何学賞を受賞しました。

(※続きは「MINKABU先物」で全文を無料でご覧いただけます。こちらをクリック

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。

株探ニュース

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

プレミアム会員限定コラム

お勧めコラム・特集

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
株探プレミアムとは

日本株

米国株

PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.