デリバティブを奏でる男たち【30】 バイキング・グローバルのハルボーセン(前編)
◆ノルウェーのタイガーボーイ
今回は前回に続いてタイガー・カブ、つまり第2回で触れたジュリアン・ロバートソン率いるタイガー・マネジメント出身であり、ノルウェーでは「タイガーボーイ」の異名を取るバイキング・グローバル・インベスターズのハルボーセンを取り上げます。LCHインベストメンツによるヘッジファンド収益ランキングにおいて、バイキングは2019年に6位、2020年に4位にランクインするなど、常にトップクラスというわけではありませんが、それなりに高いランキングに位置することが多い会社です。
2018~2021年利益トップ15のヘッジファンド(単位は10億ドル)
2018年の利益 | 2019年の利益 | 2020年の利益 | 2021年の利益 | |||||
1 | ブリッジウォーター | 8.1 | TCI | 8.4 | タイガー・グローバル | 10.4 | TCI | 9.5 |
2 | ルネサンス | 4.7 | ローン・パイン | 7.3 | ミレニアム | 10.2 | シタデル | 8.2 |
3 | ツーシグマ | 3.2 | ルネサンス | 5.6 | ローン・パイン | 9.1 | DEショー | 6.4 |
4 | シタデル | 2.1 | エガートン | 5.0 | バイキング | 7.0 | ミレニアム | 6.4 |
5 | DEショー | 2.0 | シタデル | 4.9 | シタデル | 6.2 | エリオット | 6.0 |
6 | ミレニアム | 1.8 | バイキング | 4.3 | DEショー | 5.4 | ブリッジウォーター | 5.7 |
7 | ファラロン | 1.3 | ファラロン | 3.7 | エリオット | 5.0 | バウポスト | 3.4 |
8 | ブレバン・ハワード | 0.9 | ミレニアム | 3.4 | TCI | 4.2 | ファラロン | 3.3 |
9 | エリオット | 0.8 | エリオット | 3.2 | エガートン | 3.7 | サード・ポイント | 3.3 |
10 | バウポスト | 0.4 | DEショー | 2.8 | ブレバン・ハワード | 3.0 | エガートン | 3.1 |
11 | オクジフ/スカルプター | 0.2 | バウポスト | 2.4 | ファラロン | 2.9 | デービッド・ケンプナー | 2.4 |
12 | キャクストン | 0.2 | SAC/ポイント72 | 2.3 | SAC/ポイント72 | 2.5 | アパルーサ | 2.1 |
13 | SAC/ポイント72 | 0.0 | アパルーサ | 1.5 | オクジフ/スカルプター | 2.3 | オクジフ/スカルプター | 1.9 |
14 | ムーアキャピタル | -0.1 | オクジフ/スカルプター | 1.3 | アパルーサ | 1.9 | キングストリート | 1.8 |
15 | キングストリート | -0.1 | ポールソン | 1.1 | キングストリート | 1.6 | SAC/ポイント72 | 1.7 |
全社 | -41.0 | 全社 | 178.0 | 全社 | 127.0 | 全社 | 176.0 |
しかし、2021年は巨額の損失に見舞われたようです。マーベリック率いるリー・エインズリーを取り上げた第29回でも触れましたが、2022年5月の報道ではタイガー・カブが2021年に大化けした成長株を大量に保有しており、それらが2021年の10-12月期前後から急落に見舞われたことで多額の損失を計上したとのこと。
2021年末現在、470億ドル以上の運用資産(そのうち上場企業投資が約3分の2、未上場企業投資が約3分の1)を誇ったバイキングも、運用成績はマイナス4.5%と過去最悪になったとされます。同社の投資家向けレポートによると、成績悪化の背景は「新型コロナの長引く影響を過小評価していたため」とのことでした。ただ、2022年に入ってもこれら成長株の下落は続いており、厳しい状況からまだ抜け出せずにいるとみられます。
※日足、いずれもNY市場の価格 単位ドル
※日足、いずれもNY市場の価格 単位ドル。リビアン・オートモーティブは2021年11月に新規上場
バイキングの共同創設者であるオーレ・アンドレアス・ハルボーセンは、1961年にノルウェーで生まれました。ノルウェー王立海軍兵学校を卒業し、ノルウェー海軍のエリート特殊部隊で司令官を務めたという経歴の持ち主です。また、1986年に米マサチューセッツ州のウィリアム大学で経済学の学位を取得し、1990年にはカリフォルニア州のスタンフォード大学経営大学院でMBAを取得しました。卒業後は米名門投資銀行であるモルガン・スタンレー<MS>の投資銀行部門で働きます。
その後、ハルボーセンは1992年にタイガー・マネジメントへ移籍しました。第2回でタイガーは漫画『タイガーマスク』に登場する悪役レスラー養成機関の「虎の穴」に似ていると紹介しましたが、それは創設者のロバートソンが軍隊で働いた経験から、部下の精神力を養成することや一体感を醸成させるため、そうした社内文化を形成したものと考えられます。
▼タイガー・マネジメントのジュリアン・ロバートソン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【2】
▼タイガー・マネジメントのジュリアン・ロバートソン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【2】
それゆえに、ノルウェー海軍のエリート特殊部隊で司令官を務めたハルボーセンには水が合っていたのかもしれません。また、同じ軍隊出身ということでロバートソンからは目を掛けてもらったのではないでしょうか。もちろん、それだけでなく運用成績も抜群だったのでしょう。彼はすぐに株式投資のディレクターへ昇進しました。ただ、ロバートソンは1990年代後半のITバブルを信用していなかったことなどから運用成績が振るわず、ハルボーセンは次第にロバートソンの経営に不満を抱くようになります。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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