デリバティブを奏でる男たち【30】 バイキング・グローバルのハルボーセン(前編)

特集
2022年6月27日 13時30分

◆ノルウェーのタイガーボーイ

今回は前回に続いてタイガー・カブ、つまり第2回で触れたジュリアン・ロバートソン率いるタイガー・マネジメント出身であり、ノルウェーでは「タイガーボーイ」の異名を取るバイキング・グローバル・インベスターズのハルボーセンを取り上げます。LCHインベストメンツによるヘッジファンド収益ランキングにおいて、バイキングは2019年に6位、2020年に4位にランクインするなど、常にトップクラスというわけではありませんが、それなりに高いランキングに位置することが多い会社です。

2018~2021年利益トップ15のヘッジファンド(単位は10億ドル)

2018年の利益2019年の利益2020年の利益2021年の利益
1ブリッジウォーター8.1TCI8.4タイガー・グローバル10.4TCI9.5
2ルネサンス4.7ローン・パイン7.3ミレニアム10.2シタデル8.2
3ツーシグマ3.2ルネサンス5.6ローン・パイン9.1DEショー6.4
4シタデル2.1エガートン5.0バイキング7.0ミレニアム6.4
5DEショー2.0シタデル4.9シタデル6.2エリオット6.0
6ミレニアム1.8バイキング4.3DEショー5.4ブリッジウォーター5.7
7ファラロン1.3ファラロン3.7エリオット5.0バウポスト3.4
8ブレバン・ハワード0.9ミレニアム3.4TCI4.2ファラロン3.3
9エリオット0.8エリオット3.2エガートン3.7サード・ポイント3.3
10バウポスト0.4DEショー2.8ブレバン・ハワード3.0エガートン3.1
11オクジフ/スカルプター0.2バウポスト2.4ファラロン2.9デービッド・ケンプナー2.4
12キャクストン0.2SAC/ポイント722.3SAC/ポイント722.5アパルーサ2.1
13SAC/ポイント720.0アパルーサ1.5オクジフ/スカルプター2.3オクジフ/スカルプター1.9
14ムーアキャピタル-0.1オクジフ/スカルプター1.3アパルーサ1.9キングストリート1.8
15キングストリート-0.1ポールソン1.1キングストリート1.6SAC/ポイント721.7
全社-41.0全社178.0全社127.0全社176.0
出所:各種報道(再掲)

しかし、2021年は巨額の損失に見舞われたようです。マーベリック率いるリー・エインズリーを取り上げた第29回でも触れましたが、2022年5月の報道ではタイガー・カブが2021年に大化けした成長株を大量に保有しており、それらが2021年の10-12月期前後から急落に見舞われたことで多額の損失を計上したとのこと。

2021年末現在、470億ドル以上の運用資産(そのうち上場企業投資が約3分の2、未上場企業投資が約3分の1)を誇ったバイキングも、運用成績はマイナス4.5%と過去最悪になったとされます。同社の投資家向けレポートによると、成績悪化の背景は「新型コロナの長引く影響を過小評価していたため」とのことでした。ただ、2022年に入ってもこれら成長株の下落は続いており、厳しい状況からまだ抜け出せずにいるとみられます。

【タイトル】

※日足、いずれもNY市場の価格 単位ドル

【タイトル】

※日足、いずれもNY市場の価格 単位ドル。リビアン・オートモーティブは2021年11月に新規上場

バイキングの共同創設者であるオーレ・アンドレアス・ハルボーセンは、1961年にノルウェーで生まれました。ノルウェー王立海軍兵学校を卒業し、ノルウェー海軍のエリート特殊部隊で司令官を務めたという経歴の持ち主です。また、1986年に米マサチューセッツ州のウィリアム大学で経済学の学位を取得し、1990年にはカリフォルニア州のスタンフォード大学経営大学院でMBAを取得しました。卒業後は米名門投資銀行であるモルガン・スタンレー<MS>の投資銀行部門で働きます。

その後、ハルボーセンは1992年にタイガー・マネジメントへ移籍しました。第2回でタイガーは漫画『タイガーマスク』に登場する悪役レスラー養成機関の「虎の穴」に似ていると紹介しましたが、それは創設者のロバートソンが軍隊で働いた経験から、部下の精神力を養成することや一体感を醸成させるため、そうした社内文化を形成したものと考えられます。

▼タイガー・マネジメントのジュリアン・ロバートソン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【2】

▼タイガー・マネジメントのジュリアン・ロバートソン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【2】

それゆえに、ノルウェー海軍のエリート特殊部隊で司令官を務めたハルボーセンには水が合っていたのかもしれません。また、同じ軍隊出身ということでロバートソンからは目を掛けてもらったのではないでしょうか。もちろん、それだけでなく運用成績も抜群だったのでしょう。彼はすぐに株式投資のディレクターへ昇進しました。ただ、ロバートソンは1990年代後半のITバブルを信用していなかったことなどから運用成績が振るわず、ハルボーセンは次第にロバートソンの経営に不満を抱くようになります。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


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