明日の株式相場に向けて=トヨタ・任天堂決算に見えた円安恩恵の限界
きょう(4日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比190円高の2万7932円と続伸。前日の米株高に後押しされ、日経平均は上値追いを継続した。ただ、TOPIXは小幅ながら安く引けている。きょうは主力企業の決算発表に思惑が錯綜した。
注目度の高かったものでは、まず任天堂<7974>。前日に同社の22年4~6月期決算が発表されたが、最終利益が前年同期比28%増の1189億円と3割近い伸びを達成し、市場の事前予測を上回った。もっとも為替の円安効果(差益)によってカサ上げされた部分も大きく、実態に目を向けるとドル箱商品である「ニンテンドースイッチ」の販売台数は前年同期実績を23%下回った。本業のもうけを示す営業利益は15%減益、トップラインも5%程度の減収と、株価材料としてみればネガティブ決算といわざるを得ない。もっとも、株価は前日終値近辺で強弱観が対立、結局買いが勝る展開となりプラス圏で着地した。
これについては「任天堂に先立って前週末7月29日に業績修正を発表したソニーグループ<6758>の“残像効果”も大きかった」(ネット証券アナリスト)という。ソニーGは29日に今3月期通期業績予想の修正を発表し、最終利益は従来予想の8300億円から8000億円(前期比9%減)に下方修正した。ゲーム事業の不振が背景にあるが、これを受けて週明けの8月1日に株価は一時800円以上も下落する場面があったものの、その後は下げ渋り、全体相場にも悪影響はなく、同社の決算発表後にありがちな「ソニーショック」と騒がれることもなかった。だが、ゲーム業界の重鎮である任天堂の株価には少なからぬ影響を及ぼす格好となった。
ソニーGが通期予想の修正を発表した後は、決算をまだ発表していない任天堂の下げの方がきつくなるという珍しい現象が生じた。ただし、任天堂にすれば「とばっちり売り」に見えた今週に入ってからの下げも、機関投資家などが先に保有株ポジションを落とした分、決算後の売り圧力が大幅に軽減される「塞翁が馬」のパターンとなった。おそらく、ソニーの業績下方修正を横にらみに、任天堂の決算発表前に貸株調達で空売りを乗せる動きもあったとみられ、ショートカバーも任天堂の株価に浮揚力を与えたようだ。
そして、きょうは何といっても後場取引時間中に発表されたトヨタ自動車<7203>の決算にマーケットの関心が集まった。急速な円安が進行するなかで今3月期想定為替レートを1ドル=115円に設定していた同社の業績は、おそらく大きく上振れするであろうという暗黙のコンセンサスがあるだけに、1ドル=133円台前後で推移する実勢を考慮して、どのくらいの修正がなされるのかはホルダーでなくても興味の対象となる。同社は国内製造業の盟主であり、上場企業の中でも群を抜いて為替感応度が高い。対ドル1円の円安で400億円以上の営業利益上乗せ効果が試算されている。
午後1時半前に4~6月期決算が開示されたが、これと併せトヨタは通期業績予想の修正も発表した。果たしてその内容は、最終利益こそ従来予想の2兆2600億円から2兆3600億円(前期比17%減)に上乗せしたものの、営業利益は従来の2兆4000億円(前期比20%減)を据え置いた。通期想定為替レートは1ドル=130円に仕切り直したのだが、原料コストや輸送コストの高騰、上海ロックダウンなどの影響が為替メリットを相殺するという見立てだ。為替前提を15円も円安方向に修正して、なおかつ営業利益見通し据え置きということは狐につままれた感もあるが、それだけ今は世界的にインフレ圧力が強いということになる。ちなみに4~6月期の営業利益は5786億円で前年同期実績を4割強下回った。市場では「もし為替の恩恵がなければトヨタの通期営業利益は従来計画を単純計算で6000億円、1兆8000億円前後まで落ち込む。思った以上に厳しい状況に置かれていることが分かった」(ネット証券アナリスト)という声が聞かれた。株価は当然のように大陰線を引いたが、全体の地合いに助けられ3%の下げでとどまったのは幸いだった。
あすのスケジュールでは、6月の家計調査、6月の毎月勤労統計、6月の景気動向指数(速報値)、消費活動指数などが発表される。また、東証グロース市場にクラシコム<7110>が新規上場する。海外ではインド中銀が政策金利を発表するほか、米国では7月の雇用統計の発表にマーケットの関心が高い。国内主要企業の決算発表では、レーザーテック<6920>(6月本決算)、三菱重工業<7011>、伊藤忠商事<8001>、NTTデータ<9613>などがある。(銀)
最終更新日:2022年08月04日 18時30分