窪田朋一郎(松井証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
世界的なインフレや金利の先高観などを背景に、世界の資本・金融市場の動きが激しくなっている。足元では、米国の物価上昇幅が縮小したことを好感し、株式に買いが入りやすくなっているが、米国の中間選挙など重要イベントを控えて予断を許さない状況は続く。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第5回は松井証券の窪田朋一郎・シニアマーケットアナリストに話を聞いた。
●窪田朋一郎(くぼたともいちろう)
松井証券シニアマーケットアナリスト。松井証券に入社後、WEBサイトの構築や自己売買担当、顧客対応マーケティング業務などを経て現職。ネット証券草創期から株式を中心に相場をウォッチし続け、個人投資家の売買動向にも詳しい。日々のマーケットの解説に加えて、「マザーズ信用評価損益率」や「デイトレ適性ランキング」「アクティビスト追跡ツール」など、これまでにない独自の投資指標を開発。(1)半年後の日経平均株価は2万9000円前後
(2)半年後のS&P500種株価指数は4400前後
(3)日本株ではビールメーカーなど食品関連に、米国株は資源関連銘柄に注目
(4)為替相場は来年にかけて円高・ドル安に。半年後は1ドル=125円程度を予測
――米国の7月の消費者物価指数(CPI)の伸び率が縮小したことを受けて、足元では日米の株式相場は上昇傾向にあります。半年後の日米の株価をどう予想しますか。
窪田:バイデン政権が友好国と協力して大量の石油備蓄を放出したため、原油価格が下落し、米CPIの伸び率が鈍ってきました。このため米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースも鈍るとの見方が強まり、日米の株価が上昇傾向となっています。
しかし、私は今後の半年間、株価の上昇幅は限られると考えています。日経平均株価については2万9000円前後、米国市場もS&P500種株価指数で4400前後と予測しています。投資家がこれまでの過度の悲観から過度の楽観に傾いており、いずれ反動の売りが出る可能性があるためです。足元では、空売りをしていた一部の投資家が買い戻しを迫られ、株価を押し上げる「ショートスクイーズ」が発生した可能性があります。歴史的にみると、株価が本格上昇するのは、利上げが終わってからです。米国の利上げはまだ終わったわけではありません。
――インフレ率の伸び率縮小の背景にはバイデン政権による石油備蓄の放出があるということでしたが、来年以降もこの政策は続くのでしょうか。
窪田:バイデン政権は11月の中間選挙に向けて、原油の備蓄を放出し、インフレ率をなんとしても抑制しようとしています。歴史的な物価高の中では選挙を闘えないからです。ただ、備蓄には限りがあるため、備蓄放出は長く続けられるわけではありません。選挙が終われば、いったん停止する可能性があります。
シェールガスの増産は環境保護の問題もあり、年内に原油の生産量が大きく増えるわけではありません。先日、バイデン大統領がサウジアラビアを訪問しましたが、石油輸出国機構(OPEC)の増産はお付き合い程度のものとなっています。米国の高インフレの問題が再燃するリスクはなお残ります。インフレ率が再び高まるようであれば、FRBの利上げが続くとの見方が広がり株式市場で再び売りが先行するでしょう。今後半年間の株式相場の通常シナリオは、いったん今の水準からは下落して、来年にかけて徐々に回復していくといったところだと考えています。
――株式相場全体としては今後半年間で大きな上昇は望めないということですが、有望な個別銘柄やセクターはありますか。
窪田:日本の場合、今後もモノの値上げが続くことになると思います。つまり、値上げができる業界、例えば食料品関連などが買われやすくなるでしょう。スーパーに行った時に、「値上げになっているが、仕方がないから買う」といった商品を製造している企業は、業績改善や株価上昇につながると考えられます。
――値上げできる生活必需品関連の銘柄が狙い目ということですね。
窪田:そうですね。また、必需品とまではいえませんが、酒類関連も有望セクターだと考えられます。個別銘柄をあげれば、アサヒグループホールディングス <2502> [東証P]、キリンホールディングス <2503> [東証P]、サッポロホールディングス <2501> [東証P]などです。一部の業界では、競合他社が値上げをすると、逆に値下げをして競争力を高めようとするケースがあります。しかし、ビール業界は1つの会社が値上げすると、他社も追随するケースが多く、業界全体の利益体質が改善します。こうしたセクターには投資家から買いが入りやすくなるでしょう。
米国では短期的にはグロース(成長)株の戻りが続いていますが、登山でいうと、すでに7合目くらいまできているように思います。私は一旦調整している石油関連産業に注目しています。例えばエクソン・モービル<XOM>やシェルADR<SHEL>といった銘柄です。このほか、シェールガス関連の銘柄にも再び買いが入りやすくなると予測しています。
―― 米国の物価動向などを受けて、外国為替市場で円安が一服しています。今後の展開をどう見ますか。
窪田:年内は一定の円安・ドル高水準が続くと考えています。ただ、アベノミクスの象徴的な存在である黒田東彦・日銀総裁の任期は来年4月に切れます。さらに、岸田政権は日銀の審議委員の人事で、金融緩和に積極的な「リフレ派」の片岡剛士氏の後任に、緩和の副作用に警鐘を鳴らしてきた高田創氏を就けました。来年の日銀総裁人事がどうなるかはまだわかりませんが、来年2月ころからは日銀の金融政策の変化を見越した円買いが入るでしょう。この半年でみると、円相場は1ドル=125円程度まで上昇する可能性があると考えています。
ただ、高インフレと高金利、米国・中国の対立の深まりなどを受けて、米国の実体経済が低迷してしまった場合はドルが急落する可能性があります。中国は、8月上旬のペロシ米下院議長の台湾訪問について神経質になっています。現時点では、中国が更に強力な対抗措置を取るとは考えていませんが、米中間の対立の火種はくすぶっているといえるでしょう。
――株価が本格回復するためのポイントは何でしょうか。
窪田:米国を中心とした世界的なインフレがいつ収束するのかがポイントです。インフレが一定程度に抑制され、各国の中央銀行が利下げに転じるまでには2~3年はかかると考えています。もう1つのポイントは、地政学リスクが改善するかどうかです。ロシアによるウクライナ侵攻の問題もありますが、やはり世界経済やマーケットにとっては、米国と中国の覇権争いが大きなリスクになると思います。
(※聞き手は日高広太郎)
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証一部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。5月に著書「BtoB広報 最強の攻略術」(すばる舎)を出版。株探ニュース