デリバティブを奏でる男たち【35】 エガートンのジョン・アーミテージ(前編)
◆欧州の老舗ヘッジファンド
今回は、前回に取り上げたバウポスト・グループのセス・クラーマンと同様に、日本ではあまり知られていない英国のヘッジファンド、ジョン・アーミテージ率いるエガートン・キャピタルを取り上げます。2022年7月現在、運用資産がおよそ191億ドルに及ぶ同社について、日本ではほとんど報じられることはありませんが、欧州で最も古いヘッジファンドのひとつに数えられている老舗です。また、LCHインベストメンツによるヘッジファンド収益ランキングにおいて、2019年に4位、2020年に9位、2021年に10位と、他の米系ファンドを凌ぐほどの、高い収益を叩き出しています。
2018~2021年利益トップ15のヘッジファンド(単位は10億ドル) | ||||||||
2018年の利益 | 2019年の利益 | 2020年の利益 | 2021年の利益 | |||||
1 | ブリッジ ウォーター | 8.1 | TCI | 8.4 | タイガー・ グローバル | 10.4 | TCI | 9.5 |
2 | ルネサンス | 4.7 | ローン・ パイン | 7.3 | ミレニアム | 10.2 | シタデル | 8.2 |
3 | ツーシグマ | 3.2 | ルネサンス | 5.6 | ローン・ パイン | 9.1 | DEショー | 6.4 |
4 | シタデル | 2.1 | エガートン | 5.0 | バイキング | 7.0 | ミレニアム | 6.4 |
5 | DEショー | 2.0 | シタデル | 4.9 | シタデル | 6.2 | エリオット | 6.0 |
6 | ミレニアム | 1.8 | バイキング | 4.3 | DEショー | 5.4 | ブリッジ ウォーター | 5.7 |
7 | ファラロン | 1.3 | ファラロン | 3.7 | エリオット | 5.0 | バウポスト | 3.4 |
8 | ブレバン・ ハワード | 0.9 | ミレニアム | 3.4 | TCI | 4.2 | ファラロン | 3.3 |
9 | エリオット | 0.8 | エリオット | 3.2 | エガートン | 3.7 | サード・ ポイント | 3.3 |
10 | バウポスト | 0.4 | DEショー | 2.8 | ブレバン・ ハワード | 3.0 | エガートン | 3.1 |
11 | オクジフ/ スカルプター | 0.2 | バウポスト | 2.4 | ファラロン | 2.9 | デービッド・ ケンプナー | 2.4 |
12 | キャクストン | 0.2 | SAC/ ポイント72 | 2.3 | SAC/ ポイント72 | 2.5 | アパルーサ | 2.1 |
13 | SAC/ ポイント72 | 0.0 | アパルーサ | 1.5 | オクジフ/ スカルプター | 2.3 | オクジフ/ スカルプター | 1.9 |
14 | ムーア キャピタル | -0.1 | オクジフ/ スカルプター | 1.3 | アパルーサ | 1.9 | キング ストリート | 1.8 |
15 | キング ストリート | -0.1 | ポールソン | 1.1 | キング ストリート | 1.6 | SAC/ ポイント72 | 1.7 |
全社 | -41.0 | 全社 | 178.0 | 全社 | 127.0 | 全社 | 176.0 |
出所:各種報道(再掲)
共同創業者であるジョン・クリストファー・アーミテージ(通称ジョン・アーミテージ)は1959年に英国で生まれました。彼は英保守党の支持者であり、これまで310万ポンド(1ポンド=163円として約5億円)もの献金を行ってきましたが、2016年のブレグジット(英国のEU離脱)議論が高まった際には残留キャンペーンを展開した英労働党の支持に回りました。そして、ブレグジットが決まった後はEU(欧州連合)加盟を続けるアイルランドに国籍を移しています。
ジョン・アーミテージは、ケンブリッジのペンブローク・カレッジで近代史の学位を取得。卒業後の1981年に英国の名門投資銀行、モルガン・グレンフェルに入社しました。モルガン・グレンフェルは元々ジョージ・ピーボディ・アンド・カンパニーという会社(1851年に法人化)でしたが、創業者のジョージ・ピーボディには息子がいなかったため、後継者としてともに運営にあたっていたジュニアス・スペンサー・モルガンを指名しました。ジュニアスは1864年に社名をJSモルガンに変更し、ニューヨークの代理店を息子のジョン・ピアモント・モルガンの名前に因んでJPモルガン(現在のJPモルガン・チェース<JPM>)と名付けます。このジュニアスの息子が後のモルガン財閥の創始者となるのです。1900年には当時のイングランド銀行総裁の息子、エドワード・グレンフェルが同社に参画し、その後、1910年に社名をモルガン・グレンフェルに変えています。1990年にドイツ銀行<DB>の傘下となった後、1999年にドイツ銀行傘下のバンカーズ・トラストと合併。ドイチェ・アセット・マネジメント(現在のDWSグループ)が設立されています。
アーミテージは、1983年からヨーロッパ大陸の地域を専門とする株式調査とファンド運用を行い、1991年からはモルガン・グレンフェル・アセット・マネジメントの取締役を務めました。また、1988年からはモルガン・グレンフェル・ヨーロピアン・グロース・トラストという投資信託に設立から携わり、当時の欧州ではトップクラスの投資信託へと育てています。
◆エガートン・キャピタルを創設
アーミテージは、このモルガン・グレンフェルでエガートンの共同創業者となるアイルランド系米国人であるウィリアム・ゲスト・ボリンジャー(通称ウィリアム・ボリンジャー)と一緒に働いていました。ちなみに、ウィリアム・ボリンジャーは、テクニカル分析でお馴染みの「ボリンジャーバンド」を提唱したジョン・A・ボリンジャーとは別人です。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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