明日の株式相場に向けて=「円安狂騒曲」と株価
きょう(7日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比196円安の2万7430円と反落。一時は350円あまりの下げで2万7200円台まで下押す場面があった。取引終盤は先物主導の買い戻しで一貫して下げ渋ったが、戻し切れなかった。メジャーSQ算出を週末に控え、以前から話題となっていた2万7500円プットの買いが現時点で功を奏した格好となっている。
投機的な円安が進んでいる。1ドル=180円説などという偏った見方が出てくると図らずも反転するケースも多いのだが、今回はまだ“円安ウェルカム”の余韻が残っていて、円安を本気で懸念するムードがない。投機による円安進行であっても、黒田日銀総裁が頑なにイールドカーブ・コントロール(YCC)を続ける姿勢を崩していないことを考慮すれば、合理的な売り仕掛けともいえる。8月初旬にドル円相場は1ドル=130円トビ台まで円高に振れていたが、そこからわずか1カ月あまりで14円あまりも円安に振れたことになる。140円ラインを突破したこと自体は予想の範囲内で特筆するほどの案件ではないが、そのスピードの速さはやはり尋常ではない。
問題は、これまでの「円安・株高」の鉄壁セオリーに狂いが生じるかどうか。これまでは日経平均を構成する主力輸出株にとって円安は収益面でポジティブに作用するケースが多いため株高要因となりやすく、事実リスクオンの円安と株価上昇は常に同じベクトルの向きで動いていた。中長期的視野でみても、かつてのアベノミクス相場を振り返れば分かるように、円安とともに構築された上昇トレンドであった。しかし、今は少々事情が異なる。世界経済がスタグフレーションの影に怯えている状況で、物価が上昇する過程で海外消費需要も減退傾向をたどりそうだ。つまり円安による利益採算の向上も、販売数量が減ってしまえば利益は思ったように伸びない理屈である。繰り返しになるが、1円の円安で営業利益400億円以上の上乗せ効果が見込まれるトヨタ自動車<7203>の株価推移が、その近未来図を投影しているようにも見える。
1ドル=144円台は1998年8月以来約24年ぶり。この年は長銀や日債銀が破綻した金融危機の只中にあった。この時の円安と今とは全く背景が違うのだが、一つ言えるのは当時のドル高は米国主導であった。そして今回もインフレに苦悶する米国にとって急速なドル高は大歓迎、つまり米国の意思に沿う流れだ。しかし、日本の意思として円安歓迎という時間帯は既に過ぎ去っている。物価上昇圧力は、着実に消費者マインドを揺さぶり始めた。
また、市場関係者によると「債券トレーダーからは、商機をつぶしている黒田日銀総裁への恨み節があちらこちらで聞かれる」(ネット証券マーケットアナリスト)という。アベノミクスの最大の貢献者である黒田総裁だが、任期満了のゴールテープが近づくなかで評価が芳しくない。金融関係者からも首を捻る向きが多いのは事実だが、「おそらくここで政策スタンスを変えることは意地でもしないだろう」(同)という見方が強い。それが分かっているからこその投機筋の円売り攻勢でもあるわけだ。1998年の円の安値は147円64銭。その水準を早晩クリアするのかどうか、株式市場の見地からも極めて関心の高い円安狂騒曲は当面続きそうである。
全体相場は総論として警戒局面が続くが、個別株はそれなりにテーマ物色の動きが期待できる。先ほどのトヨタの話とは矛盾するようだが、個別物色となると、やはり円安を味方につける株の方に資金が向かいやすい。海外販売比率98%の竹内製作所<6432>のほか、中古車輸出を主力とするアップルインターナショナル<2788>、水晶デバイス世界屈指の実力を持ち海外売上高が8割を占める日本電波工業<6779>。更に、米国で太陽電池製造装置販売を手掛けるエヌ・ピー・シー<6255>などが挙げられる。
あすのスケジュールでは、7月の国際収支、4~6月期GDP(改定値)がいずれも朝方取引開始前に発表される。前場取引時間中には8月のオフィス空室率、後場取引時間中には8月の景気ウォッチャー調査が開示される。このほか、6カ月物国庫短期証券の入札も予定されている。海外ではECB理事会の結果発表とラガルドECB総裁の記者会見が行われるほか、米国では7月の消費者信用残高が開示される。また、パウエルFRB議長が討論会に出席予定で、そこでのコメントに耳目が集まる。(銀)