明日の株式相場に向けて=勝利の要諦は柔軟性にあり
きょう(29日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比246円安の2万6093円と続落。前日の米国株市場ではNYダウ、ナスダック総合株価指数ともに下落したが、ハイテク株の軟調が目立つなか、ナスダック指数は10月14日以来約2カ月半ぶりに年初来安値に沈むというオマケつきで、東京市場も朝方からリスク回避ムードが強かった。中国の新型コロナウイルス感染拡大も行動規制緩和とセットで想定されていたとはいえ、米アップル株の安値更新でクローズアップされた形だ。足もとマーケットはほぼ四面楚歌の状況にある。
2022年相場は、振り返ればコロナバブル崩壊を強く印象づけた1年となった。象徴的だったのはやはり師走相場。市場関係者の間でも年末高を唱える声が圧倒的に多かったが、完全に裏切られる格好となった。掉尾の一振もみられず、とりわけ12月後半、最終コーナーを回ってからの失速ぶりが際立った。
今年の株式市場の特徴としては、なかなか方向性が見えにくく、投資家はアマノジャクな相場の不連続性に振り回されたという印象が強い。全体地合いが軟化して投資家心理が冷え込んでも、個人投資家の追い証が頻発する直前で底が入り、今度は空売りを積み上げていた側が悲鳴を上げる踏み上げ相場へと移行する。このアンワインドが終了すると、再び重力に逆らえなくなり下値を探る展開へと変わる。好材料も悪材料もほとんど後講釈的について回るだけで、ロシアのウクライナ侵攻を除けば「青天の霹靂」的な材料が相場の方向性を左右することはなかった。波の合間で投資家心理のみが右往左往した。結局、1年を通じて日経平均が2万円台後半で上下動を繰り返したのはその証左といえる。
インフレ高進とそれに呼応した中央銀行による金融引き締めが、常に相場の重荷となったが、それを悪材料として過大評価した売り方のショートポジションが皮肉にもリバウンドの原動力となった。ただ、直近の動きで師走高のシナリオに乗れなかったことは、株式市場のマネーフローが引き潮にあることを暗示しているようにも見える。来年は時間を味方につけにくい潮の流れの中で、どう戦うかということを考えなければならない。
元来、株式投資は人間が見ることのできない未来と対峙して、そこにある果実を取りに行く作業であり、その意味で投資家は希望的観測の塊ともいえる。したがって失敗しないために必要なのは、信念を貫く剛直な精神ではなく、誤謬を犯したら引き返すことに躊躇しない柔軟な思考である。流れに逆らわず、かつ次に来る波の形をいかに早く察知するかが投資の要諦であり、周りを顧みずに剛直に攻めればそれはすなわち玉砕につながる。波に飲まれるのではなく、波に乗るために必要なのは柔軟性で、負けを認めて仕切り直す勇気も時に必要となる。仕切り直す柔軟性さえあれば、株式投資は総合的に勝利することが可能だ。
年明け以降の相場は、外部環境として明らかにネガティブな要素が多い。米国や欧州ではQT(量的引き締め)を含めた金融引き締めと景気後退懸念の高まり、中国を絡めた有事リスク、米中対立を背景としたサプライチェーン問題、国内では政局が大いに乱れ、そしてミクロに目を向けても企業業績の停滞が重くのしかかる。しかし、これらが一斉に押し寄せて株価を圧し潰すようなことにはならない。ローマ帝国時代を生きたストア派の哲人セネカいわく「恐怖の数のほうが危険の数より常に多い」。これは正鵠を射た言葉で、恐怖は人間心理が生み出すもので本当の危険の数とは一致しない。恐怖の代償としてチャンスを取りにいくのがいわゆる未来と対峙する、投資するという行動にほかならず、このバランスを極めれば百戦危うからずである。
新年相場の要所となるのは1月12日に発表が予定される12月の米CPIだ。この結果を経て1月31日~2月1日の日程で行われるFOMCがどうなるかが大きなヤマである。仮に利上げ打ち止めに対する思惑が高まれば、逆金融相場の呪縛から逃れ日米ともに上値を目指す場面が期待できる。
あすのスケジュールでは、東京証券取引所の年内最終取引日(2022年の大納会)となる。また、取引終了後の午後7時には12月の為替介入実績が財務省から発表される。海外では12月の米シカゴ購買部協会景気指数(PMI)が発表される。なお、韓国とフィリピン市場は休場となる。(銀)
最終更新日:2022年12月29日 17時15分