デリバティブを奏でる男たち【45】 ヘッジファンド業界の父、アルフレッド・ジョーンズ(後編)

特集
2023年1月30日 13時30分

◆成功はいつまでも続かない

今回はヘッジファンド業界の父と呼ばれるアルフレッド・ウィンスロー・ジョーンズを取り上げています。彼が立ち上げた金融業界初と言われるヘッジファンド、A.W.ジョーンズは、ロング・ショートとレバレッジという2つの投資手法を用いたほか、マルチ・マネージャーという仕組みや競争の原理、インセンティブ(動機付けの仕組み)も導入。さらには2-20といった手数料体系(運用残高の2%を管理手数料、値上がり益の20%を成功報酬とする)など、現在のヘッジファンド・ビジネスの原型となっている手法を確立し、ジョーンズは大きな成功を手にしました。しかし、成功はいつまでも続きません。

いくら彼が徹底した秘密主義を貫いても、儲かるとなれば似た手法を用いる競争相手が出てくるのは当然のことです。また、彼は投資よりも慈善事業に熱を入れ、儲けることしか頭にない市場関係者を次第に蔑むようになりました。こうした市場関係者に対する不遜な態度は反発を招くものです。市場関係者もマーケットに詳しくないジョーンズを軽蔑するようになり、離反者も出てきました。例えば、第4回で取り上げた米大手投資銀行モルガン・スタンレーの元チーフ・グローバル・ストラテジスト、バートン・マイケル・ビッグスなどが挙げられるでしょうか。

ビッグスは米ニューヨーク銀行の最高投資責任者(CIO)であった父親の親友が会長を務める米国の老舗ブローカー、エドワード・フランシス・ハットンにアナリストとして働いていました。そして、父親の大学の後輩であるジョーンズに、銘柄を紹介して注文をもらうようになります。ビッグスの銘柄選択眼はあまりにも優秀であったため、ジョーンズから多額の注文が入り、彼は入社4年目にして同社の共同経営者(パートナー)に昇進するほどでした。

ところが、ジョーンズからは「自分の会社に転職しなければ、今後は注文を出さない」と脅されたようです。困ったビッグスは、自分の大学の先輩であり、ジョーンズのところで一番長く働いていたポートフォリオ・マネージャーのリチャード・ワーナー・ラドクリフに相談。そして二人はジョーンズから離反するという結論に至り、1965年6月にヘッジファンド、フェアフィールド・パートナーズを設立しました。その際、顧客の一部も引き抜いていったといいます。

▼モルガン・スタンレーのバートン・ビッグス(前編)―デリバティブを奏でる男たち【4】

https://fu.minkabu.jp/column/985

▼モルガン・スタンレーのバートン・ビッグス(後編)―デリバティブを奏でる男たち【4】

https://fu.minkabu.jp/column/997

◆バブルの形成と崩壊

1960年代の後半には、他にもジョーンズの手法を知る内部者や関係していたブローカーらが独立して多くの模倣ファンドが誕生し、それらが後にヘッジファンドと呼ばれるようになったといわれています。もっとも投資となれば、どのような手法においても必ず勝ち続けられるわけではありませんし、競争相手が出てくれば利益は少なくなる、あるいは利益が出せなくなるものです。また、ジョーンズは会議を「退屈」として行わず、慈善事業にのめり込んで会社にも顔を出さなくなり、スタッフとのコミュニケーションも薄れていきました。

一方で運用を任されっ放しになったスタッフは次第にヘッジを止めてしまい、レバレッジを増やしていきます。確かに1960年代の米株式市場、特に後半は大きな資金を運用する投資信託が一部の成長株を対象に、集中投資や短期売買を繰り返しており、それらは「ゴーゴー・ファンド」などと呼ばれるほど活況でした。それゆえヘッジをすれば利益は少なくなるし、もっと利益を出そうとするならばレバレッジを増やす、ということになります。そして、安定したマーケットが長く続くと、儲かる手法に飛びつく投資家が増え、次第に投資行動が均一化していきます。しかも儲かり続けている間は、リスクが顕在化する場面も少なくなっているため、面倒で手間やコストがかかるリスク管理やヘッジも甘くなっていきます。更に儲けようとしてレバレッジを極限まで増やす投資家も出てきて、市場にはバブルが形成されていきます。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


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