明日の株式相場に向けて=リスクオフ覆す日本株高の真相は何か
きょう(8日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比135円高の2万8444円と4日続伸。今週末10日にメジャーSQ算出を控えており、きょうは「SQ週の魔の水曜日」に当たる。米株波乱を受け、そのアノマリーが脳裏を過(よぎ)るところであったが、株価は思惑を外し意外な方向へと走った。
前日は米国株市場でパウエルFRB議長の議会証言を受けNYダウが570ドル超の大幅安となったのだが、リスクオフの潮流は欧州時間から発生していた。ドイツ、フランス、英国など主要国をはじめほぼ全面安商状となっており、NYダウも寄り付きから大引けまで間断なく売りプログラムが作動して下値を切り下げる動きに終始した。この流れは日付の変わったアジアにも伝播した。きょうは中国、香港、韓国、台湾、シンガポールのほか、インドに至るまで、取引時間中はまさにリスクオフ一色。唯一、世界の中で日本株市場だけが野中の一本杉のように逆行高をみせるという、滅多に見られない光景となった。
ここ最近は一部で日本株優位論が再燃していたとはいえ、きょうのような展開はさすがに違和感が拭えない。市場関係者も首をかしげる向きが多かったが、一つ確かなのはメジャーSQ算出日を前にして株式需給面から日経平均を押し上げようという力が働いていたということだ。振り返って1月下旬から3月上旬にかけての日経平均2万7000円台のもみ合いは個人投資家にとっては「下り階段の踊り場」に見えたようで、この間に信用売り残が積み上がった。前週末3日申し込み現在の信用売り残は前の週と比べ久しぶりに減少したものの、それまで8週連続で増加していた。そして、ネット証券大手の店内状況によると今週に入って再び空売りが急速に積み直されているという。2万8000円台突破も、スピード警戒感からその反動が出ると見た投資家が多いことを物語る。
今週は日米で重要イベントが相次ぐなか、乱気流に揉まれる可能性は少なくない。目先利食い急ぎで売り転換するケースも考えられる。そして、その見方は的中したかに見えた。注目されたパウエルFRB議長の米上院銀行委員会での議会証言が、予想以上にタカ派色の強いものだったからだ。2月のFOMC通過後に発表された米経済指標が軒並み強い内容だったことを受け、今月21~22日に行われるFOMCでは0.5%の政策金利引き上げの可能性に言及、更に利上げの長期化も示唆する発言を行った。2月初旬にはディスインフレのプロセスが始まったという表現でインフレが収束に向かっているという認識を示したのも束の間、その1か月後には一転してインフレへの警戒感を強調するという、傍から見ると朝令暮改を思わせるような変節である。政策決定はデータ次第という前提はあったが、やはり慌てた印象は拭えず、米国株市場はこれを嫌気して大きくバランスを崩した。
日本株にショートポジションを取っていた向きにすれば、魔の水曜日にリスクオフの波及が功を奏すかに見えた。しかし、実際は日経平均が朝安後に急速に切り返し結局4連騰、2万8000円台割れどころか2万8000円台半ばまで上値を伸ばす展開となった。為替市場で円安が急速に進んだことはポジティブ材料には違いないが、買われたセクターは陸運、小売り、不動産など内需株である。先物主導で踏み上げ相場を狙った圧力が働いていることは間違いない。今週末のSQ絡みとは別の需給思惑もある。市場筋によると、日経平均2万9100円から3万円の間に5000億円規模のリンク債の存在を指摘する声が聞かれた。「3万円というラインはかなり遠いが、ノックインすることで発行側にとっては棚ぼたとなるだけに、踏み上げを誘発させようという大がかりな買い仕掛けが入っても不思議はない」(ネット証券マーケットアナリスト)という。
今週末の日銀の金融政策決定会合も、黒田日銀総裁が最後に来てYCC解除に動くという“立つ鳥跡を濁さず”の思惑はかなり後退した。今後、YCC解除は時間の問題との見方が強い一方、マイナス金利解除については、植田次期総裁は当分動けないという見方が海外投資家の間で広がっているという。米株安トレンドでも、唯一のマイナス金利国である日本の株高修正余地に変化なしという超強気論の現実性を3月相場で試すこととなる。
あすのスケジュールでは、2月のマネーストック、22年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値、2月のオフィス空室率、2月の工作機械受注額など。海外では2月の中国消費者物価指数(CPI)、2月の中国生産者物価指数(PPI)など。(銀)