主要産油国の自主減産が意味するものとは? <コモディティ特集>

特集
2023年4月12日 13時30分

今月2日、サウジアラビア、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン、ガボンが5月から年末まで日量115万7000バレルを自主的に減産すると発表した。石油輸出国機構(OPEC)プラスの共同閣僚監視委員会(JMMC)を3日に控えて、生産目標の調節は見送られる見通しだったことから、市場参加者の驚きは大きかった。日量50万バレルの自主減産を開始しているロシアも年末まで減産を継続する。OPECプラスの日量200万バレルの生産目標の引き下げと合わせると、5月以降の減産は日量366万バレルと大規模である。

●将来的な不安要素に備えるOPECプラス

今回の減産が実際の需給に反映されるのは来月以降だが、サウジやロシアは足元の需給ではなく将来的な不安要素を先取りして減産を仕掛けてきた印象が強い。金融システム不安は一時的に収まっているものの、主要国では物価高が継続しており、行き過ぎた金融引き締めによって景気が悪化する可能性が高く、企業破綻が増えてくると金融システム不安が再燃するリスクは十分にある。ゼロコロナ政策後の中国の石油需要が上向いているとはいえ、不穏な動きに対しては先制的に対処する構えのようだ。

また、今回の自主減産発表は最近の相場水準を産油国が望まないという明確な意思表示であると思われる。原油価格が低調に推移すれば、脱炭素化社会の実現に向けて手控えられている設備投資がさらに萎縮する可能性が高く、将来的な原油高のリスクが膨らむ。OPECプラスは市場の安定を目指しており、世界を傷つけるような暴騰のリスクをできる限り排除しようとしている。

ただ、米ダラス連銀が発表した四半期エネルギー調査によると、エネルギー関連企業の1-3月期の景況感指数はマイナス2.1まで低下し、2020年7-9月期以来のマイナスとなった。本指数の内訳の設備投資は低調であり、金利高や物価高が企業マインドをすでに悪化させている。物価高による設備投資負担の拡大は米国だけでなく世界共通であり、OPECの懸念はすでに現実となりつつあるかもしれない。

●減産から見える“米国離れ”

シリアやイエメン、イランなど中東の波乱要因となっていた国々を交えて中東全体が団結しつつあることから、産油国が自らの利益のために以前よりも自由に動けるようになっていることも今回の減産の背景だろう。安全保障関係から米国の顔色をうかがう必要性が乏しくなっている。サウジとフーシ派による和平協議が始まっており、歴史的に最も悲惨なイエメン紛争は終わりを迎える可能性が高い。

米国は今回の自主減産について賢明ではないと指摘し不満をあらわにしているが、原油価格をできる限り抑制しようとする米国の意向を汲む気はないようだ。一部では今回の決定については「サウジ・ファースト」と呼ばれている。先週はロシアの戦闘艦が10年ぶりにサウジアラビアに入港しており、中東の米国離れは明らかである。米WSJによると、サウジアラビアの次期国王であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は昨年末に米国の要求を満たすことにもはや関心がないと述べた。

ウクライナに侵攻したロシアに対して、石油の輸入停止や上限価格設定など様々な制裁が科されたことはロシアを含めた産油国を団結させた。海上保険など消費国が様々な枠組みを都合の良いように利用し、本来自由であるはずの市場を遠慮なく蝕んでいることの危機感は資源国に広がり、今回の協調的な自主減産として現れたと思われる。

産油国カルテルが自由な市場に言及することはないとしても、中国海洋石油(CNOOC)と仏エネルギー大手トタルで、人民元建ての液化天然ガス(LNG)取引の決済が完了するなど、米国離れだけでなくドル離れも着実に広がっており、石油取引のドル離れも間近かもしれない。米経済の強さの源泉であり生命線のペトロダラーシステムが終わり、米国が覇権国でなくなる日はそう遠くないだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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