デリバティブを奏でる男たち【51】 投機王ジェシー・リバモア(後編)

特集
2023年4月24日 13時30分

◆4度の破産

今回は伝説の投機王ジェシー・ローリストン・リバモア(1877-1940)を取り上げています。彼はトレードで生計を立てるようになってから、亡くなるまでに4度も破産を経験しました。前編では1度目と2度目の破産について触れましたので、後編は3度目の破産から始めましょう。

1907年に起きた金融恐慌の前に売りを仕掛けて荒稼ぎをしたリバモアは、綿花市場でも相場を張っていましたが、ここでも売りスタンスでした。しかし、コットン・キングの異名を持つ人物の勧めで大量の綿花買いに転じ、1908年の綿花大暴落に遭遇します。このときにリバモアは小麦相場で出ていた利益を早々に確保して、綿花が値下がりしたら買い下がり、綿花の底打ちを確かめる前に買い増しするなど、曲がりに曲がって結局は莫大な負債を抱えてしまいました。

彼はトレーダーとして自ら体得した「他人の情報に耳を傾けるな」「他人のゲームに乗るな」「損切りを急いで利益を伸ばせ」「(平均取得価格を下げるための)ナンピン買いをするな」「底打ちや天井を確かめる前に動くな」などのルールを、ことごとく破った報いを受けることになります。評価損や実現損、あるいは借金を抱えることで冷静さを失い、以前には普通にできていたトレード・スタイルを維持できずにルールを捻じ曲げ、結果的に素人よりも始末に悪い取引を行ってしまうことは、リバモアに限らず市場参加者であれば誰しも経験していることでしょう。

その後も過去の名声から気軽に借金をすることができたため、何度もトレードに挑みますが、全く上手くいかず、リバモアはすっかりスランプに陥ってしまいました。そこで「何がまずかったのか」を徹底的に分析すべく、自らの失敗したトレードを振り返るといった「傷口に塩をすり込む」ような作業を繰り返します。その結果、借金を抱えることで焦り、冷静さを失っているとの結論に達し、彼は第1次世界大戦が始まった翌年の1915年に3度目の破産を宣言します。

そして、すべての債権者に対して債権放棄を求める一方で、借金は必ず返済すると約束します。その甲斐あって借金から解放され、精神的に気が楽になったリバモアは再び冷静な判断力を取り戻して相場に向かいます。そして、3度目の破産から2年後に約束通りすべての借金を返済しました。このように思惑が外れたことで次第に冷静さを失っていくリバモアの人間らしい弱さや、再起して借金を完済するといったリバモアの律儀な強さが、時代を超えて多くの市場参加者を未だに魅了し続けているのだと思われます。

◆世界恐慌で悪名

株式市場が天井知らずの強気相場を演じていた1929年、リバモアはいつか訪れる相場のピークを探っていました。彼は主力銘柄の株価が過熱し過ぎていると判断して、夏までに買いポジションを全て手仕舞い、手応えがあるまで打診売りを試します。そして、打診売りが利益になり始めたら売り乗せをしていきました。彼のトレード・スタイルのひとつにピラミッティングという手法があります。それはポジションの評価損が膨らんだら買い下がるナンピンとは逆の行為、つまり評価益が膨らんだら更に買い上がる、というものです。こうしたピラミッティングを資金が許す限り、あるいは相場が反転してポジションを手仕舞うまで続けました。

そうしたなか、世界恐慌の引き金となった「暗黒の木曜日(ブラック・サーズデー)」が起きたのです。1918年の第一次世界大戦終結からの 10 年間である「狂騒の 20 年代」は、戦後の楽観主義に基づいた富と過剰の時代でした。ところが、1929年3月に米連邦準備制度理事会(FRB)が過度の投機について警告した後、投資家が急速なペースで株を売り始めたため、慌てて流動性を供給するといった事態が起きます。そして自動車販売、住宅販売、鉄鋼生産など、他の重要な経済バロメーターも減速もしくは低下するなど、次第に景気は悪化していき、株価の上値も重くなります。遂には同年10月に本格的な暴落が始まり、ニューヨークダウ工業株価平均は3 年足らずで 89.2%も下落したのです。

この暴落で多くの投資家が財産を失ったばかりでなく、多額の借金を抱えて自殺する者も出ました。しかし、リバモアは1億ドルの利益を得たといわれました。それと同時に、この暴落は「グレート・ベア」と称されたリバモアが起こしたとみなされ、脅迫を受けてボディーガードを雇うまでになります。確かに、彼の売りが暴落のきっかけになった可能性はあります。しかし、冷静に考えれば、彼一人の力で世界中を巻き込むような暴落が起きるはずはなく、暴落は起こるべくして起きたのです。それでも人々は自分の失敗を誰かのせいにしたがり、その対象となったのが「グレート・ベア」でした。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。

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