山岡和雅が年後半の為替相場を読む <GW特集>
「植田新総裁を迎え、異次元緩和にも転機?」
●カイ離広がる日本と米・英・欧の金融政策
4月9日に就任した日銀の植田和男新総裁は、10日に開いた就任後初の記者会見の席で黒田前総裁による異次元緩和政策に理解を示し、YCC(イールドカーブ・コントロール)を含む現状の金融政策について「継続するのが適切」と述べました。一方で「全体を総合的に評価して、今後どう歩むべきかという観点から、点検や検証があってもいい」と、これまでの政策を点検・検証する方針を示しています。異次元緩和の副作用などが検証されることによって、今後、正常化に向けた動きが進むのではとの期待がありますが、当面は植田総裁が示した通り現状の緩和政策の維持が見込まれます。
主要4通貨の残り3つの国・地域(米国、英国、ユーロ圏)の金融政策見通しにも動きが見られました。
これまでの積極的な金融引き締めの結果、景気鈍化懸念が広がったことや、3月に発生したシリコンバレーバンク(SVB)など複数の米地銀の破綻、スイス金融機関大手クレディ・スイス・グループ<CS>の経営危機とその結果として同業大手UBSグループ<UBS>による救済合併などを受けて、世界的に金融引き締め継続の見通しが大きく後退しました。
しかし、当該国の金融当局による積極的な対応もあって懸念は緩和。一方、世界的に物価の鈍化は進んでいるものの、水準的にはまだ高いということもあり、追加利上げへの期待が再燃しています。
各中銀の見通しを整理してみましょう(4月26日時点)。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、5月の連邦公開市場委員会(FOMC)で10会合連続となる利上げが濃厚です。見通しが分かれているのが、6月にさらなる利上げを行うかどうかと、利下げがいつから開始されるのかという点です。
SVB破綻前まではかなりの確率で実施されると見られていた6月の利上げですが、SVB破綻後は見通しがほぼゼロに落ち込みました。その後、再び利上げ期待が出てきていますが、短期金利市場での織り込みは20%台と少数派にとどまっています。一方、SVB破綻後は7月にも利下げ開始かという見通しが広がりましたが、6月まで利上げがあるかもしれないという状況で7月の利下げ開始はまずないと見られます。
もっとも、パウエル米FRB議長が年内の利下げ開始を繰り返し否定しているにもかかわらず、市場は年内の利下げ開始をほぼ確実視しているだけでなく、複数回の利下げを織り込む動きを進めています。
2021年12月と先進国の中では早い段階で利上げに踏み切った英中銀は、5月11日の金融政策会合(MPC)で12会合連続での利上げが見込まれています。米国に比べて景気鈍化懸念が強いこともあり、3会合前の昨年12月会合時点で9名中2名が政策金利の据え置きを主張するなど、利上げに消極的なメンバーがいます。しかし、直近3月の消費者物価指数が前年比10.1%の上昇と、昨年付けたピークの11.1%からほとんど落ちてこないなど、物価上昇の懸念が強いため、複数回の利上げが見込まれています。今のところ5月、6月の連続利上げと、8月か9月のどちらかでの追加利上げで、年内あと3回の利上げが見込まれています。
ECBにも追加利上げ姿勢が見られます。20カ国の統一通貨であるユーロは、国ごとの状況の違いもあって、利上げに消極的なメンバーが見受けられます。直近3月の消費者物価指数は前年比+6.9%と、英国と違い昨年10月の+10.6%から着実に鈍化しています。ただ、利上げ開始が2022年7月と米国、英国より遅かったこともあり、政策金利は現行で3.5%にとどまっています。そのため、5月4日の理事会では利上げがほぼ確実視されているだけでなく、一部で0.5%の利上げ期待も見られます。また、6月の追加利上げと、5月が0.25%にとどまった場合の7月の追加利上げ期待も広がっており、年内あと0.75%の利上げが見込まれています。
●年後半の為替相場は相当の波乱含み
こうした状況を受けて為替相場の見通しです。
3月のSVB破綻をきっかけとした金融システム不安が後退。米、英、ユーロ圏は追加利上げ期待を強める中、植田日銀は当面の緩和姿勢継続を示しています。
こうした金融政策姿勢の差は、外貨買い・円売りにつながります。とはいえ、各通貨とも利上げの打ち止め時期が見えてきているだけに、ドル・円で昨年秋の1ドル=150円を超えるような円安はまずないと思われます。ただし、3月に付けた138円手前を超えて、140円に迫るような動きは十分にあり得ると思われます。ユーロ・円、ポンド・円も同様にいったんは上を試しそうです。
今年後半に入り、各国の利上げが止まった後は、流れが大きく変わりそうです。米国の利下げ期待が強まる一方、植田日銀による異次元緩和の修正への期待がより強くなることでドル安・円高が見込まれます。夏以降の米国の経済状況次第ですが、夏頃までの円安分をすべて解消し、3月に付けた130円割れを試す動きが見込まれます。勢い次第では1月に付けた127円台前半の年初来安値トライもあり得ると見ています。利下げがまだ遠いと見られるユーロやポンドに対する円高はドル・円に比べると抑えられそうですが、ある程度は円高が進むと見ています。
GW明け、当面は円安が優勢と見られますが、年後半は相当な波乱含みです。
2023年4月26日 記
株探ニュース