明日の株式相場に向けて=果たして長期上昇相場の黎明か
きょう(16日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比216円高の2万9842円と4日続伸。一時は2万9900円台まで上値を伸ばし、3万円大台乗せまであと半歩という距離感である。
相変わらず上値指向の強い相場だが、中身を見ると物色対象の二層化が進んでいて、ある意味「局地的な強気相場」ということもできる。東証プライム市場の主力銘柄に海外投資家とみられる大口の資金が流れ込み、日経平均やTOPIXなど主要株価指数は木の葉がつむじ風に巻かれるような上昇トレンドを形成している。しかし、木の葉が舞うように上がっているのは時価総額上位の大型株で、小型株は地に根を張ったような状態の銘柄が多い。「デイトレーダー的な見地では、むしろ投資マインドが冷めた状態」(ネット証券マーケットアナリスト)という。
例えばプライム市場全体でみた場合は、きょうも値上がり銘柄数は全体の5割ちょっとにとどまり、前引け時点では値下がり銘柄の方が多かった。つまり主力どころから外れた銘柄は概ね売りに押されているのが実情である。中小型株からの資金逃避の流れは続いていて、前日時点で日経225の騰落レシオ(25日移動平均)が147%とかなりの過熱ゾーンにある一方、グロース市場は88%と、ややもすると陰の極に近いようなポジションにある。これが物色対象の二層化である。「デイトレーダーはグロース市場に上場しているような時価総額の小さい銘柄で回転を利かせようとする傾向が強く、同時にヘッジ目的で日経ダブルインバースのような日経平均“逆連動”型のETFやプットオプションなどを購入し、売り買い双方で逆目を引いてしまう」(中堅証券ストラテジスト)というケースも観測されるという。中小型株では、昔で言うところの仕手系株に際立ったパフォーマンスが見られるが、あくまでピンポイントで、テーマ買いのように横に広がる気配はない。
日経平均は3万円大台乗せからアベノミクス後の高値である21年9月の3万670円(終値ベース)を捉えるかという勢いであり、ここにきて通常は株の特集など行わない週刊誌が「ざわついている」と指摘する市場関係者もいる。いわゆる市場関係者(株の専門家)への取材攻勢が始まっていて、既に3万円をクリアした後の企画が勝手に走っている状態のようだ。確かに3万円大台ラインを通過点に3万1000円台に手が届くようなら、33年ぶりとなるバブル崩壊後の最高値圏を舞い上がる相場となる。ちなみにTOPIXの方はひと足先に2127の高値引けで21年9月の高値を上回り、実質青空圏に足を踏み入れた。もっともドル建てベースでみた日経平均やTOPIXは今われわれの目に映っている姿とは違う。週刊誌のざわつきは注意信号といえるかもしれない。
前日の米国株市場を振り返るとNYダウが6日ぶりに反発。5月のNY連銀製造業景況指数が想定以上の落ち込みをみせたことで朝方は安かったが、その後は買い戻しが優勢となった。米国も空売り筋は身動きが取れない状態だ。「売り方の拠りどころは米債務上限問題。これが紛糾すれば相場に下げ圧力が加わる。しかし、過去を振り返っても実際に米政府の資金が枯渇してデフォルトに陥ったことはない。チキンレースであっても、どこかで落としどころは用意される公算が大きい」(前出のストラテジスト)とし、債務上限問題がクリアされた場合は踏み上げ相場のスイッチが入る可能性もある。
ただ繰り返しになるが、好事魔多しというのが株の常。このタイミングで日本株が上昇するのは需給関係のなせる業だが、年末に向けて世界的なリセッションの流れ、場合によってはスタグフレーションの色を帯びるなかで、足もとの株高が東京市場にとって黎明に見えるとすれば、それは危険な要素をはらむ。アベノミクス高値超えが、長期上昇トレンドに向けた最初の一歩と考えるのは早計であろう。持ち株は軽めで、慎重にキャッシュポジションを確保しておくスタンスで裏切られることはないと思われる。
あすのスケジュールでは、1~3月期GDP(速報値)が朝方取引前に発表されるほか、午後取引時間中には3月の鉱工業生産指数(確報値)が開示される。また引け後に発表される4月の訪日外国人観光客数への注目度が高い。海外では4月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)改定値が発表されるほか、4月の米住宅着工件数にマーケットの関心が高い。また、米20年国債の入札も予定される。(銀)