「乃木坂46は、アイドル界のスーパーマリオ」と見立て、非ゲーム株に挑戦
すご腕投資家に聞く「銘柄選び」の技 ゆずさんの場合~最終回
2012年に300万円を元手に株式投資をスタートし、いきなり高値掴みで50万円の損失を食らうが、あきらめずに再チャレンジへ。最後の望みをかけて集中投資したガンホー<3765>で大当たりし、以降は幼いころからハマっていたゲームの銘柄に特化した投資法で大躍進する。14年には早々と億り人を達成、15年からは専業投資家に転身した。前半の資産形成期は中小型株中心、現在は大型株中心で安定成長を目指した投資を行っている。基本はこれぞと思う銘柄を天井までバイ&ホールドし、利益の最大化を目指す。最近はエンターテインメント銘柄の投資にも情熱を注ぐ。
第1回「ゲーム株に集中し、たった2年で億り人に、大きな負けは1回だけの理由」を読む
第2回「ゲーム株に集中投資で成功した裏に、もう1つの『集中の技』」を読む
第3回「自分の成功体験こそが1番の先生」、自己流で負けない技」を読む
すご腕投資家ゆずさん(ハンドルネーム)は、ゲームセクター株への集中投資を次々と成功させ、加速度的に資産を拡大させてきた。そして今、新たな成功と投資の楽しみを手にすべく、挑戦しようと乗り出す分野があるという。それは、エンターテインメント株だ。
ゆずさんが得意とするのは、好きだと思うものにどっぷりとハマること。そして、好きなだけにとどまらず、その道にかけては「誰にも負けない」レベルの知識を武装して、投資の実践に役立てていくことだ。
今、新たに手掛けるエンタメ分野には、本人の知的好奇心を引き付ける魅力があるという。それは、どのようなものかを見ていこう。
最高峰のアイドルグループのパワーに期待
エンタメ分野で、ゆずさんが今、熱視線を送っているのがKeyHolder<4712>。人気女性アイドルグループ「乃木坂46」のプロデュースを行うなど、総合エンタメ事業を行う企業だ。
同社に初めて買いを入れたのは、コロナ禍の2020年5月頃、株価が800円近辺にあった水準だ。以降、株価が下落する中でも買い下がり(ナンピン買い)を続けて保有株を増やし、平均取得単価は695円に。
足元で同社株は1000円超まで上昇しており、50%超の含み益が乗っている格好だ。
■KeyHolderの週足チャート(20年8月~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同
着目したのは、乃木坂46という、多くの人々を魅了する強力なコンテンツを持つことだ。KeyHolderは、20年5月に乃木坂46の運営にかかわるノース・リバー (東京都、北川謙二社長)の全株式を取得、連結子会社化した。
ノースは乃木坂46のマネージメント、コンサートの制作などを行う「乃木坂 46合同会社」の持分の50%を保有する企業。ノースの100%子会社化で、乃木坂 46合同会社はKeyH<4712>の持分法適用会社となり、乃木坂46の運営や映像制作 、広告事業を新たなビジネス領域に加えた。
このニュースを知ったゆずさんは、この乃木坂46が、これまでに大きなリターンを稼ぎ出してきた任天堂<7974>でいう『スーパーマリオ』に匹敵する輝きを持つ存在として、KeyHの業績を押し上げるものと期待した。
■KeyHolderのノース・リバーの買収のリリース
ゆずさんは、KeyHに投資をする際に、ゲーム株と同じような成功体験を手にすることができるのかを吟味した。ゲーム株での成功には、小さい頃からゲームにハマってきた本人の経験が、血となり肉となってきた面がある。
一方、アイドルグループについては、ゲームのような知見があるわけではない。また、ゲームと同様に没入できる対象なのかも、確たる自信が持てない状況だった。
そこで、乃木坂46のライブに足を運んだり、いくつもの映像コンテンツに触れたりと、自分の目と耳を駆使してゲームと同じように没入できそうなら投資に本腰を入れようと頭を整理した。
こうした作業を重ねるうちに、ゆずさんは乃木坂46に魅了され、今後もグループが持続的に発展していく可能性を感じるようになったという。
低迷→浮上の波に乗る
KeyHに魅力を見出したのは、ゲームビジネスと同じようなサイクルの波を見極めることで、リターンを得られる可能性を感じたこともある。
ゲーム株では、新機種や新タイトルの発売、ゲームイベントに向けてのプロモーション活動といったイベントを通して、株価の動意づく機会が、定期的に巡ってくる(参考)。
こうしたサイクルはアイドルのビジネスでも起こり、事業や業績が低迷するにしても、新曲の投入や何かのイベントが行われることで、業績が浮上し、これに株価が反応する可能性がある。
ちょうどゆずさんが同社に着目したタイミングは、コロナ禍で、ライブコンサートや握手会などの大人数が密集するイベント系は開催取り止めが相次ぎ、乃木坂46にとっては逆風が吹き向かう時期だった。ならば、「低迷期の今は、仕込む好機になる」という結論に至った。
乃木坂46は、売り上げナンバーワンの楽曲をいくつもリリースしてきたトップアイドル。任天堂のスーパーマリオと同様、その分野でナンバー1級のコンテンツ、ブランドを持っている会社ならば、業績が低迷に陥ることはあっても、いつかは回復そして成長軌道に戻る可能性は高いとの期待感を抱いた。
さらに、調べて評価する材料としたのが、乃木坂 46のマネージメントなどを行う乃木坂 46合同会社の持分の半分をソニーグループ<6758>の子会社であるソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)のグループが保有していることだ。
その持分を保有するSMEのグループ会社は、乃木坂46を「社運をかけて育てていく本気のアイドルグループ」として位置づけていることや、AKB48など多くの人気アイドルグループをプロデュースしてきた秋元康氏が関与していることなどもあった。
リアルにネットが加わるパワー増加に期待
特にコロナ禍の時期にKeyHを評価したポイントとして、乃木坂46がライブやコンサート会場を満員にするリアルでの強さを持っていることがある。これは、リアルイベントの自粛を強いられたコロナ禍の当初は悪材料の一方で、リアルでの強さがある限り、ネットでも「イベントを見たい」という需要を生む可能性があると考えた。
リアルでの強さがバーチャルで浸透すれば、コロナが収束ないし終息した際には、リアルで人を集めつつ、その模様をネット配信することで視聴料収入も加え、業績拡大を加速できる。
これまでもDVDやテレビ放映などを通した収益化の機会はあったが、ネットは同時配信やコメント表示、投げ銭といったネットならではの強みや楽しみも加わり、収益化の可能性が広がる。
実際、乃木坂46の動員力は大きい。ゆずさんが報道などで目にした情報では、乃木坂46がメジャーデビューを記念して毎年2月に開催される「BIRTHDAY LIVE」の21年開催分については、前夜祭、本祭の2日間合計の視聴チケット販売数は約24万枚、推定視聴者数は70万人を突破していた模様だ。
首都圏の主要なコンサート会場となる東京ドームの収容人数は5万人規模、横浜アリーナは2万人規模。これと比べれば、その視聴者数は桁違いの水準となる。
すご腕たちにダメ出しを食らう
一連の判断は吉と出て、KeyHの株価は昨年22年3月9日に付けた安値(454円)を底に上昇基調となり、足元は23年の年初来高値を切り上げつつあるところだ。
底値圏でゆずさんがボックスと見なしていた揉み合い水準も上抜け、日足と週足で見た移動平均線も、短期、中期、長期線とも上からこの順番に並んで上向きに。上昇トレンドのモメンタムが継続しつつある。
将来の回復を信じてナンピンを重ねたゆずさんも、今は含み益を拡大させているところだ。だが、同社株の買い入れに際し、初めから自分の見立てに揺るぎない自信を持っていたわけではなかった。
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