秋野充成(いちよしアセットマネジメント)が斬る ―どうなる?半年後の株価―

特集
2023年6月7日 13時00分

米連邦政府の債務上限の効力を停止する法案が議会を通過し、債務不履行(デフォルト)が回避されたことなどを背景に、日米の株式相場は堅調に推移している。低迷していた日本株には外国人投資家からの買いが入り、日経平均株価はバブル崩壊後の最高値を更新し続けている。もっとも、ロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、米国と中国の政治・経済を巡る対立など懸念材料が消えたわけではない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第15回はいちよしアセットマネジメントの秋野充成・取締役に話を聞いた。

●秋野充成(あきのみつしげ)

1985年第百生命入社。有価証券部にて企業調査及び国内外の株式運用を担当。2000年いちよし投資顧問(現いちよしアセットマネジメント)入社。運用部長、執行役員を経て2020年より現職。

秋野充成氏の予測 4つのポイント
(1) 半年後の日経平均株価は3万5000円程度、ダウ工業株30種平均は3万5000ドル程度と予測
(2) 米景気不安などを背景に日本株が投資分散の受け皿の1つに
(3) 日本株ではアドバンテスト、東京エレクトロンなど半導体関連に注目
(4) 米国株ではGAFAM、エヌビディア、インテルなど。生成AIの開発競争にも注目

―― 米連邦政府の債務不履行(デフォルト)が回避されたことなどを受けて、日米の株式相場は足もとでは好調です。半年後(12月末)の日経平均株価、ダウ工業株30種平均をどう予測しますか。

秋野:私は半年後の日経平均株価を3万5000円、米ダウ工業株30種平均を3万5000ドルと予測しています。日本株に買いが入りやすい状況が今後も続くと考えています。

―― 日本株は過去最高値に迫る水準に上昇する見通しということですね。一方でダウ平均の上昇率は一定程度にとどまりそうです。背景を教えてください。

秋野:背景には、米国景気のスローダウン(減速)への不安があり、景気敏感株から資金が流出しています。分散の受け皿は3つあります。1つは米アップル<AAPL>やマイクロソフト<MSFT>など「GAFAM」に代表されるグロース(成長)株です。景気が悪化しても強い収益力がある成長株には資金が集まりやすくなっているためです。2つ目は欧州の高級ブランドなど個人消費関連の大型株です。もう1つが日本株です。このため、日経平均株価も大幅に上昇すると予測しています。

―― 低成長やデフレ、少子・高齢化などを背景に、外国人投資家は近年、日本株の投資比率を引き下げてきた印象があります。日本株が分散投資の受け皿となっている理由は何でしょうか。

秋野:理由は複数あります。1つは米欧の中央銀行と違い、日銀が金融緩和を継続していることです。他国に比べて実質金利が低く、PER(株価収益率)が上昇しやすい状況にあります。円安により製造業の業績が押し上げられていることに加えて、インバウンド(訪日外国人)消費も盛り上がっています。日本は新型コロナウイルス感染拡大からの経済の本格回復が比較的遅かったため、今後の景気拡大への期待もあります。半導体などを中心に対日投資が増え、設備投資が盛り上がっていることも、日本株にとってポジティブな動きです。

―― 物価高もあり、今年の春季労使交渉(春闘)の賃上げ率は約30年ぶりの高水準となりました。日本株への影響は。

秋野:原材料価格の上昇や輸入物価の上昇を受けて、企業がコスト増加分を価格転嫁し始めました。賃上げ率が高まり、「値上げ→賃上げ」の循環ができる可能性が高まっています。こうした好循環ができれば、企業収益と個人消費の両方にプラスとなり、株価の押し上げ要因となります。

これに加えて、東京証券取引所が3月末に、PBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業などに対して、改善策を開示・実行するよう要請しました。プライム市場に上場している企業の約半分がPBR1倍を割り込んでいる東京株式市場は、投資先として「最後のフロンティア」と見ることもできます。外国人投資家は「今度こそ日本企業が経営を変革するかもしれない」と期待し、割安株に買いを入れています。自社株買いなどの短期的な対策を評価しているわけではなく、中期的な成長戦略に期待しています。

図1

【タイトル】

*Bloombergよりいちよしアセットマネジメント作成

*2023年3月末現在

―― インバウンド消費の拡大や半導体を中心とした対日投資の拡大などは昨年から予測されていました。今になって外国人投資家が日本株を買い越し始めた理由は何でしょうか。

秋野:足もとの外国人投資家の買いの背景には、米景気の先行き不安が現実味を帯びてきたことがあります。米シリコンバレーバンクの破綻など金融不安や商業用不動産の価格下落などを受けて、投資家の間で昨年より米景気への不安が高まっているわけです。このため、米国一極集中だった投資先が分散し始めたといえるでしょう。そのうちの1つが日本株ということです。仮に日経平均株価の予想PERが17倍に上昇すれば約3万8000円、18倍なら約4万円です。日本株には、なお上値の余地があると考えられます。

―― 株式市場の注目セクターはありますか。

秋野:日米の株式市場ともに半導体関連です。今や半導体はあらゆる産業や製品で使われています。半導体業界はシリコンサイクル(好不況の波)が激しいのが特徴ですが、今後は好況の時期が長く、不況の期間が短くなることが予想されます。

個別の銘柄で注目しているのは、日本の場合は半導体製造装置大手のアドバンテスト <6857> [東証P]や東京エレクトロン <8035> [東証P]、ディスコ <6146> [東証P]などです。米国の場合は半導体大手のエヌビディア<NVDA>やインテル<INTC>、マイクロン・テクノロジー<MU>などに注目しています。また、不景気でも収益力のある「GAFAM」は引き続き注目されます。生成AI(人工知能)関連の開発事業などの動きにも注意する必要があります。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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