期待薄の評価に好機あり、逆張りファンダの割安狙いで億り人の技
すご腕投資家さんに聞く「銘柄選び」の技 肥長孝卓さんの場合-第1回
福岡県に住む専業投資家。20代に株式投資をスタートし、約40年で1億5000万円のリターンを稼いだ。増やしてきた手法は、割安成長株を対象とする中期売買、高配当株を対象とする長期売買の2パターンがある。銘柄選びでは、35年にわたる企業経営の経験が反映されたものになっている。株式投資も企業経営も始めたきっかけは「稼ぎたいという野心」だ。画像は自宅で栽培している「金のなる木」。幸運を招くという花言葉を持つ。「株探-個人投資家大調査-2023春」の回答者で、投資スタイルは「バリュー重視」、日本株投資の腕前は「上級者」となる。
時代遅れの製品、特需が剥げ落ちるサービス――。
今回紹介する肥長孝卓さん(ハンドルネーム、以下肥長さん)は、一見するとネガティブな材料が目立つ銘柄に、成長の可能性を見出すスタイルで億り人となった投資家だ。
資産拡大の支えとなったのは、縮小均衡の市場で会社を大きくしてきた企業経営の経験だ。35年前に創業してから現在まで市場規模は約5分の1に縮小するオートバイ販売で、九州地方で多店舗展開に成功した実績を持つ。その中で磨き上げた経営者目線が、銘柄選びに投影されている。
約40年の累計のリターンは1億5000万円ほど。その半分以上を経営する企業の運転資金や不動産投資に振り向けたため、現在、個人で運用している日本株資産は7000万円になる。日本株の投資スタイルは、割安成長株への中期投資。原則、常時2~3銘柄を数カ月保有して、数百万円のキャピタルゲインを積み重ねてきた。
足元の評価額は、全体の7000万円のうち47%とほぼ半分を占める(下の円グラフ)。残りの53%は、高配当の2銘柄を長期運用している。肥長さんが現在のポートフォリオを形成する軌跡を、3回シリーズで紹介する。1回目は、ネガティブ材料に好機を見い出す逆張り・割安成長株投資のケースについて見ていく。
■肥長孝卓さんの日本株の運用資産と内訳
斜陽産業でキラリと光る銘柄を発掘、400万円を獲得
2022年に最もリターンを獲得した成功例がミクニ<7247>だ。下のチャートのように21年3月に買い始めて平均取得単価は300円ほど。22年1月に平均単価510円で売却し、約400万円のリターンを獲得した。
■ミクニの月足チャート(2012年8月~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同
ミクニ株に注目したのは、市場規模が今後縮小していく可能性が高い事業を手掛けているからだ。同社の主力事業は、燃料噴射装置など四輪車・二輪車のエンジン部品の製造・販売。
世界的にEV(電気自動車)化の流れが加速していく環境下で、ガソリン車関連の同社株は様々な思惑から2010年以降、浮き沈みを繰り返す。そうした中、肥長さんは直近の下値付近につけていた2021年に投資を決断した。
投資妙味を感じたのは、残存者利益を享受できる可能性があること。市場の縮小で同業者が撤退し競争環境が緩やかになれば、新たな需要の取り込みなどで収益力や収支が改善していく期待が持てる。
具体的に取り込める需要は次の2つだ。1つはメンテナンス需要だ。新車がEVに置き換わっていくにしても世界に存在する自動車の大半がガソリン車。すでに供給した分のメンテナンスの需要は当面続く。
もう1つは、ガソリン車の新車需要も、当面は手堅さを見込めること。EVのインフラが整備されて普及するまでにはタイムラグがある。特にミクニが重視するインド市場では「インフラ整備のめどが立っていない状況で、ガソリンで走るオートバイ人気は根強いものがある」と分析する。
このように期待を持つ背景には、冒頭で触れたように自身も衰退産業の中で、残存者利益を享受して成長を遂げた成功体験があるからだ。
肥長さんが起業したのは1987年、32歳の時だった。始めたのは自動二輪車の販売代理店だ。当時は周囲から「二輪車の売れ行きが鈍っている時代なのに起業するとは、どうにかしているのではないか」と笑われた。
当時は国内の販売台数は縮小し始めていた。原付きを加えた販売台数では1980年の236万台から、肥長さんが起業した年に近い85年は209万台となり、2021年は42万台と5分の1ほどに縮小している。
■二輪車の販売台数の推移
出所:全国軽自動車協会連合会、日本自動車工業会。注:原付きを含む
急速に萎んでいく市場環境の下で、肥長さんが九州エリアで店舗を拡大していけたのは、残存者利益を取り込むことに成功したからだ。
「購買需要の減少を上回るペースでディーラーの廃業が進み、競争環境が緩やかになった」と本人は振り返る。
さらに、肥長さんは特定の企業の商品を独占的に取り扱う特約店契約にこだわることによって、取り扱いメーカーとの信頼関係を深めることで会社の成長を軌道に乗せた。
「購買需要が低減すると、メーカー側もどの販路を残すかを取捨選択する」。複数メーカーの製品を取り扱う店舗よりも、自社製品だけの販路を開拓してくれる協力的な販売代理店は残してもらえやすい。
財務の安定性は、銀行融資の可否基準を適用
こうした自身の企業経営での経験が、EV化の中で向かい風を受けるミクニに可能性を見出すことに役立った。ただし、エンジン部品が衰退していく事業であることのみで、同社株の購入に踏み切ったわけではない。
逆張りの発想で銘柄を選ぶ上で生じる様々なリスクに耐性があるのかを、財務の安定性や株価のバリュエーション面から割安かを判断して見極めている。
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