菊地正俊(みずほ証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価―

特集
2023年8月16日 11時40分

好調な企業業績や円安などを背景に日本の株式相場は堅調に推移している。日銀は7月の金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の柔軟化を決定。米国債の格下げなどから日経平均株価は急落する場面はあったものの、依然として高水準を維持している。もっとも、市場関係者の間では、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続などへの警戒感が根強い。ロシアによるウクライナ侵攻は長引き、米国と中国の政治経済面での対立など懸念材料も消えていない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第17回はみずほ証券の菊地正俊・チーフ株式ストラテジストに話を聞いた。

●菊地 正俊(きくち まさとし)

みずほ証券株式会社 エクイティ調査部 チーフ株式ストラテジスト。1986年 東京大学農学部卒業。1986年4月 大和証券入社。大和総研を経て、2000年12月にメリルリンチ日本証券、 2012年9月より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。タイムリーなレポート、アジアを中心としたグローバルな視点への評価は高い。外部専門家による多様なセミナーを開催。企業を訪問し、ボトムアップの銘柄も語る。

菊地 正俊氏の予測 4つのポイント
(1) 半年後の日経平均株価は3万3000円程度と予測
(2) 半年後の米S&P500種株価指数は4500程度と予測
(3) 半導体や電子部品、情報通信、輸送機、サービスなどに注目
(4) ルネサスエレクトロニクスなどAI関連、任天堂などゲーム関連にも注目

―― 格付け大手フィッチ・レーティングスが米時間8月1日夕に米国債を格下げしたことにより、日経平均株価も大きな影響を受けましたが、高い水準は維持しています。半年後(2024年1月末)の日米株価をどう予測しますか。

菊池:日経平均株価は3万3000円程度、S&P500種株価指数は4500程度になると予測しています。日経平均株価は今年8~9月に3万円程度、S&P500は4300程度まで下落する可能性がありますが、その後は上昇に転じるでしょう。

―― いったん下落するものの、また上昇基調に転じるということですね。予測の背景を教えてください。

菊池:企業の業績予想などから株価のフェアバリュー(公正価値)を計算すると、日経平均株価は半年後に3万3000円程度になります。経済環境からみても、来年初めには米連邦準備理事会(FRB)の利下げ期待や、米国の景気減速のソフトランディング(軟着陸)期待が出てくると考えています。日本企業の業績回復期待もあり、株式相場は上昇すると考えています。

TOPIX(円ベース、ドルベース)とS&P500の推移(8月8日時点)

【タイトル】

出所: ブルームバーグよりみずほ証券エクイティ調査部作成

―― 米国債の格下げや米ハイテク株の下落などを背景に、2日の東京株式市場で日経平均株価は大幅反落しました。今後の相場への影響をどう見ますか。

菊池:私は通常の調整の範囲内にとどまっていると考えています。もともと8~9月は、米国株が下落する傾向があります。日経平均株価は4月以降、大幅に上昇しましたので、一時的には下落すると予測しています。

―― 日銀は7月28日の金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を柔軟化しました。株式相場への影響をどうみますか。

菊池:金融政策の正常化は避けては通れません。タイミングを見ながら実施する必要があります。相場の影響については、日銀のやり方とメッセージ、タイミングによって、プラス、マイナスのどちらに転んでもおかしくありません。日銀が市場と対話しながら、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を見極めて決めれば良いのだと思います。

―― 深刻な不動産不況もあり、中国景気の先行きを懸念する声も根強くあります。日本の株価への影響は。

菊池:中国での売上比率の高い機械や素材関連の企業は、業績・株価の両面で悪影響を受けると思います。しかし、日米経済は一定の堅調さを維持し、懸念されている中国の経済成長率も5%程度には達するとされています。中国景気の減速の影響は関連業種にとどまるでしょう。

―― 日本の株式市場で注目している業種を教えてください。

菊池:半導体や電子部品、情報通信、輸送機、サービスなどです。

―― 半導体については、すでに株価が上昇してしまっているので、市況が回復しても大きな株高は望めないという見方もあります。

菊池:当社では、半導体業界は需要活況期である「スーパーサイクル」に向かっているとみています。今後はデータセンターやAI(人工知能)、半導体、半導体製造装置が伸びるでしょう。足元は在庫調整局面にありますが、構造的に伸びると予測しています。

―― 注目する個別銘柄はありますか。

菊池:AI関連銘柄としてはルネサスエレクトロニクス <6723> [東証P]、イビデン <4062> [東証P]、ゲーム関連では任天堂 <7974> [東証P]、カプコン <9697> [東証P]です。

―― ゲーム関連銘柄をあげた理由を教えてください。

菊池:外国人投資家が、日本で強みがある分野として注目しているからです。例えばサウジアラビアの政府系ファンド、公共投資基金(PIF)などが日本のゲーム関連株の保有比率を引き上げています。ゲーム関連企業がすぐれた知的財産戦略をとっていることも、外国人投資家に注目されている理由だと考えています。

―― 東京証券取引所が3月に「株価純資産倍率(PBR)1倍割れ」の是正を企業に促し、関連銘柄が買われる場面もありました。

菊池:今のところ企業のPBR改善に向けた対策は、期待外れだと考えています。東証の要請を受けて、企業の自社株買いが増えたと言う人もいますが、4~7月の金額は前年同期を下回っています。PBR対策を発表した企業もまだ多くはありません。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。


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