明日の株式相場に向けて=高配当株のバリュー・スマッシュ相場
週明け11日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比139円安の3万2467円と3日続落となった。息を止めたまま全力疾走を続けられないのは人間も相場も一緒である。目を見張るような連騰の後はそれに見合う形で、肩で息をする場面も訪れる。直近の相場に当てはめれば8月21日から9月6日まで12勝1敗、特に8月28日から9月6日まで8連騰と気を吐いたわけだが、その反動が前週後半からきょうまでの3営業日続落、合計770円あまりの下落となって顕在化した。トレンドが上向きであっても、騰落レシオやサイコロジカルラインなどテクニカル指標が明らかに過熱している時には、いったん立ち止まる勇気も必要である。
米国では長期金利の先高観が改めて取り沙汰され、既視感の漂う警戒ムードが醸成されているが、日本でも外国為替市場で円安の進行を背景として、鉄壁のハト派路線を貫いていた植田日銀総裁にいよいよ揺らぎが見え始めてきた。現状の物価高は覆うべくもなく、たとえ現状は賃金上昇を伴わないインフレであっても、デフレ環境が続いていると強弁することは既に難しくなっている。
読売新聞の植田日銀総裁のインタビューで、植田氏は「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になれば、マイナス金利の解除を含め、いろいろなオプションがある」と語ったという。この場合の“いろいろなオプションがある”というのは付け足しであり、マイナス金利というワードの緩衝材に使われているが、端的に言ってしまえば大規模緩和策の本丸であるマイナス金利解除が近いということを宣言しているようなものだ。続けて植田氏は「(具体的な時期は不明だが)来春の賃上げを含め、年末までに(物価の上昇傾向を裏付ける)十分な情報やデータが揃う可能性はゼロではない」とした。まどろっこしい表現ながら、これまでの来年の春闘の結果を見て云々という論調を修正し、それよりも時間軸が早まっていることを示唆したといえる。これを受けきょうは銀行など金融株を買い、ハイテクや不動産などを売る動きが鮮明となった。ただし、バックミラーに映った景色はあくまで軌跡であって、その延長線上に果実が落ちているとは言い切れない。
投資の果実として分かりやすいのは未来に委ねるキャピタルゲインよりは確実なインカムゲイン、企業から株主への配当である。当面は、9月末に向けた配当権利取りの動きを絡め上げ潮に乗っている高配当株に照準を合わせておくのが期待値の高い投資手法といえる。
きょうは銀行以外では高配当株の一角が買われた。9日の株探トップ特集「高配当・駆け込み買い」最強リストとして紹介されていた6銘柄はすべて年間4%を超える配当利回りで9月末の株主を対象に配当を行う企業だが、エスケーエレクトロニクス<6677>をはじめ全銘柄が上昇して引けている。エスケーエレは前週後半の全般波乱含みの下げ相場でも上昇、きょうも含め3日連続の逆行高となった。
同特集で紹介されていなかった銘柄の中から、同様の条件に当てはまる銘柄を探すと、まずFPG<7148>が挙げられる。9月決算期企業で期末一括配当、23年9月期は65円60銭の配当実施を予定し、配当利回りは4.55%だ。不動産ファンドは海外案件が開花し、営業最高益更新が濃厚とみられる。
このほか、独立系自動車部品メーカーでシートを手掛けるタチエス<7239>、Vベルト大手の三ツ星ベルト<5192>、橋梁大手の宮地エンジニアリンググループ<3431>、車載向けコネクターで高い商品競争力を誇るケル<6919>などが挙げられる。
あすのスケジュールでは、5年国債の入札が午前中に行われるほか、午後には地銀協会長の記者会見が予定されている。また、IPOが1社予定されており、東証グロース市場にライズ・コンサルティング・グループ<9168>が新規上場する。海外では8月の英失業率のほか欧州経済研究センター(ZEW)の独景気予測調査に注目度が高い。米国では10年国債の入札が行われる。また、アップル<AAPL>の新製品発表が予定されており、マーケットの関心を集めそうだ。(銀)