明日の株式相場に向けて=机上の好業績期待と相場に吹く寒風
きょう(11日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比189円高の3万1936円と続伸。前日の欧州株市場で独DAXや仏CAC40をはじめ主要国の株価指数が大きく上昇、米国株市場でもNYダウが3日続伸と上値指向を続けており、東京市場でも目先筋の利食いをこなし、リスク選好の地合いを引き継ぐ格好となった。
しかし、日経平均は直近2営業日でザックリ1000円近く水準を切り上げたのだが、相場の実態は強気優勢とは言い難い印象も受ける。きょうは値下がり銘柄数が1400を上回り、プライム上場銘柄の77%が下落している。日経平均を押し上げたのは東京エレクトロン<8035>、レーザーテック<6920>といった一部の半導体値がさ株とソフトバンクグループ<9984>、ファーストリテイリング<9983>のパフォーマンスに拠るところが大きい。日経平均は強調だが相場は変調という最近しばしば見られるパターンである。
ファンダメンタルズに目を向けると、国内企業の収益について今年は特に良好という見方が市場関係者の間に広がっている。24年3月期に本決算を行う企業の中で、第1四半期(4~6月)時点で上方修正に動いた企業は全体の1割弱だったが、これらの企業は中間期(4~9月)の段階で再上方修正に動く可能性が非常に高く、過去の統計からその比率は7割近くに達するという。その意味では10月末から11月中旬にかけて本格化する中間期決算発表を前に、今は楽しみが多い時間帯ということになる。
しかし、今の東京市場に業績相場の雰囲気を感じ取ることができない。グロース市場銘柄の弱さが際立っている。前日時点で同市場の騰落レシオ(25日移動平均)は依然として悲観のボーダーラインである80%を切っている。ネット証券大手が開示している直近の信用評価損益率も全市場ベースではマイナス8.7%とひと頃と比べ改善傾向を示しているが、グロース市場に限るとマイナス24%と、追証多発の危険水域が目と鼻の先だ。小型のグロース株に重心を置く個人投資家の体感温度はともすれば真冬に近いはずである。好調な企業業績への期待も、現在相次いで開示されている2月期決算企業の中間期は、大幅増益あるいは上方修正を発表したにも関わらず、コンセンサス未達で大きく売り叩かれるケースが目立つ。机上の論理とは明らかに異質の風が現場に吹いていることが分かる。
一方、米国で政策金利の引き上げが仮に終着点に到達したとしても、日本は時間軸的に対極に位置している。つまり日銀はこれから金融政策転換の「スタート地点に立つために」重い腰を上げた段階で、マイナス金利解除に向けたモラトリアム期間は来年に持ち越されそうだ。しかし、これは不安心理の先延ばしに過ぎない。良好な企業業績が担保されたとしても中期的には金利上昇の洗礼を受けることになり、グロース市場はそれを気にしてアレルギー症状を起こしたような状態にある。全体論としてプライム市場だけ別世界の株高を満喫するということは考えにくい。業績相場を堪能するのは容易ではなさそうだ。
そして、米国にもアキレス腱がある。今の米国は経済の強さが頼みの綱といえるが、金利上昇に対してFRB内部に危機感がにわかに台頭している。ジェファーソンFRB副議長のほか、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、ダラス連銀のローガン総裁、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁、アトランタ連銀のボスティック総裁など、FRB高官がここにきて一斉に口裏を合わせたようにハト派寄りのコメントを出している。既にFRBの利上げは9月で終了と言わんばかりで、これから発表される米消費者物価指数(CPI)は眼中にないかのような、ある種異様なムードが漂う。市場関係者によると、「債券価格下落による米銀の含み損が急膨張しており、意地でも長期金利を抑えねばならないというコンセンサスが生まれている」(ネット証券アナリスト)という。既に利上げ終了なら株式市場には好材料だが、その背景には弾薬庫がチラつく。仮に中東リスクにサウジが絡み、原油が再び高騰するようなケースで、FRBはインフレ圧力を無視できるのか、前方は視界不良である。
あすのスケジュールでは、8月の機械受注、9月の貸出・預金動向、9月の企業物価指数、9月のオフィス空室率など。海外では20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がモロッコで13日までの日程で開催される。このほか、米国では9月の消費者物価指数(CPI)への関心が高い。このほか週間の米新規失業保険申請件数など。また、米30年物国債の入札も予定されている。なお、ブラジル市場は休場となる。(銀)