明日の株式相場に向けて=藤井八冠の無双と「AI時代」

市況
2023年10月12日 17時00分

きょう(12日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比558円高の3万2494円と大幅続伸。9月の米消費者物価指数(CPI)発表前で、明日にオプションSQ算出を控えており、本来であれば手を拱(こまぬ)く場面だが、実際は先物主導で上値追いが加速する展開となった。9月15日ザラ場に3万3634円の高値をつけてから値を崩し、10月4日に3万487円の安値をつけるまで、3000円以上の急落をみせたが、見ての通りの弾丸リバウンドである。今回も過去同様に戻り道で踏み上げ相場の様相を呈した。

ところで、巷間話題となっているが、将棋界では第71期王座戦の挑戦者となっていた藤井聡太竜王・名人が永瀬拓矢王座に3勝1敗で五番勝負を制し、王座を獲得するとともに史上初の八冠独占を達成した。振り返れば、約7年前に14歳の最年少プロ棋士として登場、いきなり初戦から29連勝し、それまで長きにわたって不倒の連勝記録であった28連勝をピッタリ1勝分塗り替えるという、漫画チックともいえる鮮烈デビューを果たした。その時点で星の輝きの強さは尋常ではなかったが、そこからこれまでの現実離れした活躍は、モンスター級としか言いようがない。ついこの間には、谷川浩司十七世名人の持っていた最年少名人獲得の記録を更新し脚光を浴びたばかりで、とにかく手に届く位置にあるものはすべて“つかみ取る”。しかも本人自身は貪欲さの欠片もなく、歩いた軌跡がそのまま金字塔となっている。目指す場所に研鑽を積んで到達するというのではなく、結果として頂点に立っているというのが真の天才の所業である。

このモンスター級の強さは、努力を苦にしない才能も含めて天賦の才以外の何ものでもないが、しかしこれは藤井八冠が仮に10年早く生まれていたら現在のような無双ぶりは発揮できなかった可能性が高い。棋力を高める過程で最強の成長ドライバーとなったのが人工知能(AI)の存在である。

“藤井少年”がデビューした2016年、囲碁界では当時世界トップクラスであった韓国棋士がグーグル傘下のディープマインドが開発した「アルファ碁」に完敗、将棋界ではそれから2年後の18年、第2期電王戦二番勝負で当時の佐藤天彦名人がAIソフト「Ponanza(ポナンザ)」になすすべなく2連敗し、完全情報ゲームにおける人類とAIの最終決戦においてAIの人間超えが証明された。一度抜かれたら、あとは差が広がるばかりである。その瞬間から人間がAIと戦うというコンセプトは消滅し、いかにAIを活用して付加価値を生み出すかというステージに変わった。また、AIの演算能力も光速の進化を遂げ、囲碁も将棋も当時エポックメーカーの役割を担った最強ソフトであっても、今のソフトとはレベルが段違いで全く歯が立たない状況だ。現在は、将棋のトッププロでも既存のAIソフトに大駒落ちで勝てない、人間から見れば何万光年も離れたいわゆる神の領域にある。

藤井八冠はティーンエイジにして、このAIの存在する領域と意義を理解し、最大限に活用して自らの感性を磨いた。人間同士では10年がかりでも到達できない景色をAIは当たり前のようにリアルタイムで見せてくれる。いうなれば、固定電話の回線を引くというインフラを抜きに新興国でモバイルが普及するプロセスと同じで、積み上げずに跳び越えることをAIは可能にしている。その跳び越えたものが何であるかを問う必要がない。将棋で正解手を示すのにその思考過程は今も昔もブラックボックスである。

株式市場でも既にAIが闊歩しているが、数年先は今の勢力図が大きく変わっている可能性もある。今のところは高速アルゴリズム売買の代名詞的な位置付けながら、いずれピンポイントで人間心理を逆手に取るような実戦ゲリラ型のAIも台頭しそうだ。ただし相場は完全情報型のゲームではない。例えば株式需給の流れなどAI以上にブラックボックスが多いのが相場であり、解釈自体も仮説の上に成り立っているケースが少なくない。それだけにAI全盛時代であっても人間の知恵が問われる。

明日は株価指数オプション10月物の特別清算指数(オプションSQ)算出日にあたるほか、9月のマネーストックが朝方取引開始前に開示される。また、名証メインに成友興業<9170>が新規上場する。海外では9月の中国消費者物価指数(CPI)、9月の中国卸売物価指数(PPI)、9月の中国貿易統計、8月のユーロ圏鉱工業生産、9月の米輸出入物価指数、10月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・速報値)など。(銀)

出所:MINKABU PRESS

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