S&P500 月例レポート ― 9月下落で市場は悪材料を織り込む? (1) ―

市況
2023年10月26日 11時40分

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P500 MARKET:2023年9月

個人的見解:金利を長期的に高止まりさせるFRBの政策が浸透したことで、9月は8月を上回る下落。S&P500指数の9月の騰落率は4.87%の下落、第3四半期は3.65%の下落、年初来は11.68%の上昇。

株式市場で材料消化が進んだことは良いニュースです。(それほど強く確信しているわけではありませんが)おそらく、8月の1.77%下落に続き、9月も株式市場が4.87%下落したことで(下落率は2022年9月の9.34%よりは小幅でしたが、2021年の4.76%や2020年の3.92%を上回りました)、市場は悪材料を織り込んだと言えるかもしれません。

指摘できる悪材料としては、第4四半期の消費支出の減少、学生ローンの返済再開問題、中国経済の減速、ドル高の影響、1バレル=91ドルまで上昇した原油価格(消費者物価指数[CPI]よりも生産者物価指数[PPI]への影響の方が懸念されます。なお、10月のCPIに基づいて公的年金の引き上げがどの程度となるかが決定されますが、引き上げ幅は3.2%が見込まれています)、労働コストの上昇、そして(10月の第1週がノンイベントで済むとは考えられませんが)米国政府機関が閉鎖される可能性が挙げられます。

当然のことながら、(理論的には)上記に加えて、以下の点も市場では材料視されています。つまり、依存症患者(米国の消費者)には買い物が欠かせないこと(クレジットカード残高の増大)、政府が進めている支出プログラム(半導体事業支援のためのCHIPS法、インフラ整備事業、IRA[インフレ抑止法]、IRS[米国内国歳入庁]が新型コロナ対策としての従業員雇用継続税額控除[ERC]の新規申請の受理を延期したとしても発生する新型コロナ関連の支出)、堅調な労働市場(ようやく僅かながら減速の兆候が見え始めています ― とはいえ、週間新規失業保険申請件数ではまだ減速の兆候は確認されていません)、そして市場参加者がバックストップ(最後の守り手)として、経済に問題が生じれば、政府が(大統領が署名することで)救済措置を講じる(少なくとも2024年11月までは)と考えていることです。

今後の展開が予測しづらいのは間違いありませんが、私は自分が理解している(あるいは理解していると思っている)ことに基づいて行動していきます。米国経済は想定以上に力強く(財政支援が大盤振る舞い状態にあるとしても)、企業のバランスシートは健全です(少なくともS&P500指数採用銘柄全体として見た場合)。負債コストは(キャッシュフローによって)問題なくカバーされており、保有現預金も引き続き高水準となっています(S&P Industrials指数構成銘柄の保有現預金は1.8兆ドルで、営業利益の82週分に相当します)。営業利益率も歴史的に見て高い水準にあります(第2四半期は11.87%ですが、この先低下が予想されています。過去10年間の平均は10.32%、1993年からの長期平均は8.34%で、これにはストーリー、あるいは対話型読書法であるABDで話題となるような統計もあります)。利益も第3四半期には若干の増加が見込まれています(1%の増益予想。陰では2.5~3%と予想する声も聞かれました)。第3四半期については、前期比と前年同期比では(セクター毎に)状況が大きく異なっています。

10月(58%の確率で上昇し、平均騰落率は0.54%の上昇)は9月(年間で最も騰落率が悪い月で、上昇する確率は僅かに42%、平均騰落率はマイナス1.12%)と比べて株式市場のパフォーマンスは良好で、企業業績が相場を動かす重要な材料となるでしょう。市場参加者は個別銘柄や産業サブセクターへの投資で成功する方法を熟知しています。マクロ的視点から言えば、雇用統計や政策金利(依然として借入に頼っている場合)以外では、原油価格の高騰を背景とした物価やコストの上昇(直接的なものや輸送費、製品価格を通じた影響)が相場の動きに影響する可能性があります(現在はすでに取引レンジの下限で推移)。

米連邦準備制度理事会(FRB)はコアCPIやPPIを注視することを選択するかもしれませんが、消費者には無理であることから景況感が一段と悪化し、最終的には消費活動に悪影響するかもしれません。とはいえ、心配は無用です。政府機関が閉鎖されたとしても10月中旬には再開されるはずです(10日以上も政府機関が閉鎖されれば、その影響は甚大になると考えられています)。そして、政府が私たちを苦境から救出してくれるでしょう(そういえば、かつてレーガン大統領は英語で最も恐ろしい9つの単語から成る言葉は、”I’m from the government I am here to help.”[私は政府の人間です。手助けするためにいます]だと語っていました)。

過去の10月相場を思い出してみてください(覚えている人は多くはありませんが、彼らはかつての波乱相場を乗り越えて今も投資を続けている人はほんの一握りだと語っています)。1987年10月19日にはS&P500指数は20.47%、ダウ平均は22.61%下落しました。1929年10月28日にはS&P500が12.34%、ダウ平均が11.73%下落し、翌29日もそれぞれ10.16%、12.82%下落しました。

●インデックスの動き

○S&P500指数は4.87%下落して4288.05で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス4.77%)。8月は4507.66で終え、1.77%の下落(同マイナス1.59%)、7月は4588.96で終え、3.11%の上昇(同プラス3.21%)でした。過去3ヵ月では3.65%の下落(同マイナス3.27%)、年初来では11.68%の上昇(同プラス13.07%)、過去1年では19.59%の上昇(同プラス21.62%)でした。

ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は3.50%下落(同マイナス3.42%)、S&P500指数のマイナス4.87%を上回りましたが、年初来では、S&P500指数のプラス11.68%に対してプラス1.09%(同プラス2.73%)と、引き続きS&P500指数を大きく下回っています。この乖離は、ウェイト付け(時価総額に対して単純株価)によるものですが、歴史的に見ると追随しています。

⇒S&P500指数の時価総額は9月に1兆7210億ドル減少(8月は6670億ドル減少)、年初来では3兆8040億ドル増加し、35兆9380億ドルとなりました。

○9月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は、8月の1.01%から0.88%に低下(7月は0.68%、6月は0.88%、5月は0.96%、4月は0.92%、3月は1.51%)、年初来では1.07%となりました。2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした。

○9月の出来高は、8月に前月比1%増加した後、3%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では18%の減少でした。2023年9月までの過去1年では前年比11%増加しました。2022年は同6%の増加でした。

○9月は1%以上変動した日数は20営業日中3日(上昇が0日、下落が3日)でした。8月は23営業日中5日(上昇が2日、下落が3日)でした。7月は20営業日中に前日比で1%以上変動した日はありませんでした。年初来では、1%以上変動した日数は187営業日中49日(上昇が27日、下落が22日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。9月は20営業日中8日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動はありませんでした。8月は23営業日中12日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動はありませんでした。年初来では1%以上の変動が87日、2%以上の変動が12日、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。

過去の実績を見ると、9月は44.2%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.28%、下落した月の平均下落率は4.07%、全体の平均騰落率は1.12%の下落で、歴史的には1年で最も悪い月になっています。2023年9月のS&P500指数は4.87%の下落でした。

10月は57.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.25%、下落した月の平均下落率は4.67%、全体の平均騰落率は0.54%の上昇となっています。

今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2023年は10月31日-11月1日、12月12日-13日、2024年は1月30日-2月1日、3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月11日-12日、7月30日-31日、9月17日-18日、11月6日-7日、12月17日-18日となっています。

※「9月下落で市場は悪材料を織り込む? (2)」へ続く

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