明日の株式相場に向けて=メガバンク急落の裏事情
きょう(8日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比105円安の3万2166円と続落。朝方取引開始前のムードは悪くなかった。前日の米国株市場では米長期金利低下を背景にハイテク株が買われるという、お決まりのリスクオンの構図だったことで、東京市場でもこれに素直に追随するイメージを描いていた市場関係者は多かったはずだ。実際、寄り付きの日経平均は先物に引っ張られて185円高でスタートし、その後ほどなくして240円あまりの上昇をみせ3万2500円台へと歩を進めた。
通常はここから上げ幅をジリジリと広げ、後場一段高というコースがよくあるパターンだ。しかし、この日はいつもと様子が異なった。寄り後3分できょうの天井をつけ、その後は漸次値を消す展開。それでも前引けはやや持ち直し57円高で着地したのだが、中身をみると値下がり銘柄数が全体の約7割を占めるという軟調地合い以外の何物でもなかった。前場終了時のTOPIXは13.8ポイント安。この下げは日経平均で言えば190円安くらいの風速である。後場に入って日経平均がマイナス圏に沈んだのは自然な流れだった。
原油市況が足もと急落しており、これを受けて資源・エネルギー関連株が安くなったのは仕方ないとしても、重苦しさの元凶はそこではない。TOPIXの下げが示唆しているように、きょうの相場の悪役は三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>をはじめとするメガバンク、そして地銀株を含めた銀行セクター全般ということになる。三菱UFJは一時6%の下落で1200円台を割り込んだが、地銀株の下げは更に厳しく、バリュー株の宝庫である銀行株が総崩れとなったことで全体に及ぼす負のインパクトも大きくなった。
銀行株は米長期金利の低下で売られたという解釈は、過去の経緯をみれば瞭然で全くピント外れである。下落の背景については海外機関投資家の「失望」を挙げる市場関係者もいる。何に失望したのかといえば、それは三菱UFJが行った「預金金利の引き上げ」であるという。今月1日に三菱UFJは10年の定期預金金利を0.2%に引き上げることを発表した。それまでの金利0.002%からみれば100倍の水準とはいっても、預金する側にすれば1000万円を10年寝かして20万円の利子しかつかないのでは、物価高を考慮すれば魅力をほとんど感じないというのが本音。ところが、これについてネット証券大手のアナリストは海外ファンド筋から次のように言われたという。
海外筋いわく、「米系金融機関では預金流出を危惧するような特殊な事情がない限り、そう簡単には預金金利を引き上げない。利ザヤを獲得する機会を自ら減らすことに慎重である。まして、日本の銀行は10年債利回りが依然として1%にも届かない状態で預金金利を引き上げるというのは早過ぎるし、株主目線で言えば売却を考える」。確かに、今後金利が上昇する過程で銀行が保有する債券価値は低落するのに、運用環境で利ザヤを貪欲に取りに行かなければメリットは何も残らない。しかもトップの三菱UFJが率先して預金金利を引き上げれば、他行も追随する必要性に迫られる。このネガティブシナリオが連鎖して、きょうの銀行株総売りのトリガーになったという。
きょうのような7割超の銘柄が下落したような地合いでは掻き消されがちだが、強気論の拠りどころは、今回の決算発表で明らかとなっている好調な企業業績だ。つまりミクロ面から株式市場を押し上げるという見方だが、これも微妙な部分がある。好調な決算は自動車周辺に集中しているようにも見えるからだ。自動車産業の裾野は非常に広く、半導体不足解消による生産台数の回復が多くの関連企業に恩恵を及ぼしているのは事実。しかし、この生産台数急増はあくまで供給側のソリューションであって、本質的な需要拡大によるものとは違う。つまり一過性で次に控えるものがない。「自動車というキーワードを外すと、意外と悪決算が目立つ」(中堅証券ストラテジスト)とする声も聞かれる。全体指数の上昇局面でも「自らの保有株は“音無し”という投資家の声は多い」(同)ともいう。
あすのスケジュールでは、日銀金融政策決定会合の主な意見、10月の貸出・預金動向、9月の国際収支、10月のオフィス空室率、10月の景気ウォッチャー調査など。また、6カ月物国庫短期証券と30年物国債の入札も行われる。海外では10月の中国消費者物価指数(CPI)、10月の中国卸売物価指数(PPI)、7~9月期フィリピンGDPのほか、米国では週間の新規失業保険申請件数、米30年物国債の入札が予定される。(銀)
最終更新日:2023年11月08日 18時40分