シナリオ次第で米銀行株は面白い!=米国株
11月に入って米株式市場は反騰相場が続いており、S&P500は月初来で7%超上昇している。特に月初のFOMCや米雇用統計、そして、今週のインフレ指標を受けて、株式市場は買い戻しが強まっているようだ。
その中でも好パフォーマンスをけん引しているのが銀行株だ。KBW銀行株指数は月初来で約12%上昇している。その最大の要因は米国債利回りの低下であろう。
通常であれば、長期金利上昇は貸出金利が上昇することから、銀行にとっては有利になる。しかし、いまは逆だ。当初こそ銀行の助けになるが、FRBの最近の利上げサイクルのように、長期金利が急速に上昇すると銀行は逆に苦しくなる。貸出金利も上昇するが、銀行の資金調達コストも上昇し、また、利回り上昇はイコール債券価格下落を意味することから、銀行がバランスシート上に保有している債券の価値が下がり含み損を抱える。当然、銀行は準備金を引き当てなければならず、キャッシュが拘束される。今年3月に発生した米地銀の混乱が思い起こされる。
また、貸出金利上昇により銀行は新規融資を躊躇うほか、既存融資の延滞の可能性も懸念するため、より貸出が圧迫される。銀行は、特定の債券やローンなど、よりリスクが高いとみなされる資産に対して、より多くの準備金の積み上げが迫られ、それが収益性を悪化させる。
銀行はまた、消費者の返済難も心配しなければならない。米国ではまだ、延滞率は歴史的に低い水準で推移しているが、それが徐々にパンデミック前の水準に近づいており、規制要件を満たすために、これもまた準備金の必要性が高まる。
長期金利が低下し、保有債券の含み損が解消すれば、それは潜在的に上昇する信用コストのクッションとして機能する可能性がある。特に、自己資本のTier1比率が7%未満の銀行は恩恵を受けるであろう。
また、長期金利低下は他の面でも銀行を後押しする。借り手が支払う金利は基本的に米国債利回りに連動するが、金利上昇により、人々は新たな住宅ローンを組むことを躊躇い、企業も新規プロジェクトや設備投資に消極的になる。利回りが低下すれば、銀行の貸出条件は悪くなるが、それ以上に件数が増え、相対的に銀行にとってはプラスだという。
米銀行株は歴史的なバリュエーションよりも、まだ割安で推移している。近い将来、インフレの落ち着きが確認され、FRBの利下げ期待が本格的に台頭してくるとのシナリオが描けれるようなら、現在の米銀行株の水準は面白いのかもしれない。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美