デリバティブを奏でる男たち【67】 ニーレンバーグのリズム・キャピタル(前編)

特集
2023年11月27日 13時30分

今回は第32回で取り上げたマルチストラテジー・ファンド運営会社スカルプター・キャピタル・マネジメント(旧オクジフ・キャピタル・マネジメント)を買収することに合意したリズム・キャピタル<RITM>を取り上げます。

スカルプターは、後に米財務長官となったロバート・ルービンが率いる米名門投資銀行ゴールドマン・サックス・グループ<GS>のリスクアービトラージ(上場企業間のM&Aに伴う裁定取引)部門で金融キャリアをスタートさせたダニエル・オクが、出版王ともいわれたジフ・デイビス社のウィリアム・バーナード・ジフ・ジュニアの息子たちと立ち上げたオクジフ・キャピタル・マネジメントがベースになっています。

同社は控えめで手堅い運用スタイルのため、機関投資家からの評判は良かったのですが、2007年の上場以降、様々なトラブルに見舞われました。2019年にオクが辞任した際、社名を現在のスカルプターに変更しています。詳細については以下を参考にしてください。ちなみに、ここでいう名門投資銀行とは、金融の世界においてグローバルに強い存在感を示すバルジ・ブラケット(業績をベースにした投資銀行ランキングの上位を占める世界的規模の金融機関)にリストアップされている投資銀行を指します。

▼オクジフ改めスカルプター・キャピタル(前編)―デリバティブを奏でる男たち【32】

https://fu.minkabu.jp/column/1524

◆ニーレンバーグの人物像

スカルプターの株価は、紆余曲折を経て上場時から90%以上も下落する事態となり、遂には2023年に身売りすることとなりました。その買収先として一躍有名になったリズム・キャピタルですが、これまでは知る人は少ない会社でした。

同社の最高経営責任者(CEO)、かつ代表取締役会長兼社長であるマイケル・B・ニーレンバーグは、米国屈指の難関大学であるアマースト大学で、住宅ローン担保証券を研究し、博士号を取得した人物です。卒業後に米名門投資銀行だったリーマン・ブラザーズ(2008年に経営破綻)の管理職として金融キャリアをスタートさせました。そこで彼は変動金利住宅ローンの開発に取り組みます。その後、米大手投資銀行だったベアー・スターンズに移籍。金利および外国為替取引業務の責任者、仕組み商品を組成するストラクチャー業務の共同責任者、住宅ローン担保証券取引業務の共同責任者など、さまざまな上級管理職を歴任。2006年から2008年までは、同社取締役会のメンバーも務めました。

ところが、2007年にニーレンバーグが共同責任者だった住宅ローン担保証券取引業務に大きな問題が起きます。それはサブプライム住宅ローン証券化商品を運用する同社の二つのレバレッジ・ファンドが破綻してしまったことでした。これをきっかけに同社の信用は大きく棄損し、2008年には米連邦準備制度理事会(FRB)の救済対象となった挙句、2ドルで米名門投資銀行のJPモルガン・チェース<JPM>に身売りする事態となりました。

▼2007年 サブプライム問題(後編)―デリバティブ投資手法の進化―破壊と創造の歴史【8】

https://fu.minkabu.jp/column/733

JPモルガン・チェースにおいて彼は、グローバル証券化商品の責任者および経営委員会のメンバーを務めることになりましたが、間もなく米名門投資銀行だったメリルリンチを救済合併したばかりの世界金融大手バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(2019年にメリルリンチの名前は外され、現在はバンク・オブ・アメリカ<BAC>)に移籍します。そこでマネージング・ディレクター兼グローバル・モーゲージおよび証券化商品責任者を務め、同部門の全ての販売および取引活動を担当しました。

バンク・オブ・アメリカに転籍してから5年後の2013年、ニーレンバーグは不動産関連の投資・金融業務を行う米REIT(上場不動産投資法人)であるニュー・レジデンシャル・インベストメントのCEOに就任します。この年に同社は米REITだったニューキャッスル・インベストメントからスピンオフ(分離)されました。その後、ニューキャッスルは、2016年に社名をドライブ・ショックに変更。事業形態もREITから一般法人に変更しました。

◆買収に次ぐ買収

ニュー・レジデンシャルは、主にMSR(Mortgage Servicing Rights、モーゲージ・サービシング権利)などの住宅ローンに関連する業務を行っていましたが、ニーレンバーグは多くの名門投資銀行を渡り歩いた経験から、単一の資産クラスへの過剰な投資事業に専念するのではなく、事業ポートフォリオを分散させることで、景気サイクルの変化や急変によって大きな影響を受けることなく、企業が安定的に成長することを目指しました。

(※続きは「MINKABU先物」で全文を無料でご覧いただけます。こちらをクリック

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。

株探ニュース

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

プレミアム会員限定コラム

お勧めコラム・特集

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
株探プレミアムとは

日本株

米国株

PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.