明日の株式相場に向けて=東電HD周辺で動意気配の材料株
きょう(12日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比51円高の3万2843円と続伸。前日の米国株市場ではNYダウ、ナスダック総合株価指数ともに年初来高値を更新、外国為替市場でも朝方は1ドル=146円台前半で円安に推移していたこともあって、日経平均は寄り付きにフシ目の3万3000円台を回復した。しかし、ほぼ寄り天状態となり、その後はジリジリと上げ幅を縮小する展開を強いられた。後場に入ると前日終値近辺まで水準を切り下げマイナス転換も視野に入ったが、土俵際で踏ん張り結局50円あまり上昇して引けている。もっとも値下がり銘柄数が1000を上回り値上がり銘柄数の2倍近くに達した。個人投資家泣かせの地合いが続いている。
足もとの国内政局で安倍派の閣僚が一斉に更迭される可能性が高まっている。「そして誰もいなくなった」というのはアガサ・クリスティの名作推理小説だが、不人気の岸田政権においてもここ最近の急展開はさすがに想定し得なかったシナリオかもしれない。内閣支持率が20%強というのは危機的だが、「とはいえ、ポスト岸田を選出するにも難しい状況でこのままダッチロールが続きそう」(中堅証券ストラテジスト)という。株式市場はこれまで政局に関しては諦観の境地というべきか、あまり売り材料視はされた経緯はなかったが、きょうあたりの値動きは、政局を嫌うという外国人投資家の売り圧力も意識されていたようだ。ここは材料株物色に照準を合わせたいところ。テーマ買いの動きが見えにくいだけに参戦は容易ではないが、グローバルな流れを念頭に置けば原発周辺株が有力視される。
電力株はきょうは総じて利益確定の売りに押されたが、当面は売りと買いのせめぎ合いが続く可能性がある。東京電力ホールディングス<9501>が仕手化の様相を呈したのは見ての通り。トリガーとなったのは柏崎刈羽原発の再稼働の思惑であり、前日まではこれを足掛かりに短期資金の買いが集中した。「(原発の再稼働が実現しても)賠償問題などから配当ができない電力会社の株を買い上がることに妥当性はない」という辛口の市場関係者の意見も聞かれるが、需給はすべての材料に優先するのが株の世界であり、理論的に空売りに合理性があっても、現実は踏み上げの肥やしになってしまうケースが繰り返されてきた。今回の東電HDの急騰劇もそのケースに当てはまり、日証金で直近の貸借倍率が0.54倍と大幅に売り長となっている。切り返しがあるのかどうか、今後の展開が注目される。
市場では「国内だけでみると、柏崎刈羽原発の再稼働を急ぐ動きが不自然なようにも映るがそうではない。これは脱炭素戦略の流れで原発回帰が世界的なコンセンサスとなっていることが背景にある」(ネット証券アナリスト)とする。今月1日に米政府がCOP28で、2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量を3倍にすることを目指すことを宣言、日米を含む22カ国が賛同したという。
こうなると、 原発関連という物色テーマは柏崎刈羽原発の稼働にフォーカスするだけではとどまらない可能性もある。仮に柏崎刈羽原発が稼働すれば、東電HD以外の電力会社の有する原発にも追い風となる。現在稼働している大飯原発、高浜原発を有する関西電力<9503>や、川内原発、玄海原発を有する九州電力<9508>などの株価は、東電の陰に隠れて地味に上値を指向している。PERを見れば関西電4倍台、九州電が4倍弱と割安感が強く、関西電は50円の安定配当を継続、九州電も今期は復配を計画している。
原発関連銘柄としては前週に取り上げた日本ギア工業<6356>が強い足で、きょうは3月3日につけた年初来高値575円を上回り、約9カ月ぶりに年初来高値を更新した。ちなみに時価は15年2月以来8年10カ月ぶりの高値圏に浮上している。木村化工機<6378>も静かに上値を指向、720円台を横に走る75日移動平均線を足場にもう一段高があれば、もみ合い上放れとなる。このほか、原発のメンテナンスで実績が高い東電系の設備工事会社である東京エネシス<1945>は押し目買い妙味がありそうだ。
あすのスケジュールでは、12月の日銀全国企業短期経済観測調査(日銀短観)が朝方取引開始前に発表されるほか、午後取引終了後には11月の投信概況が開示される。海外では10月のユーロ圏鉱工業生産指数、11月の米卸売物価指数(PPI)が注目される。また、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表とパウエルFRB議長の記者会見にマーケットの関心が高い。このほか、ブラジル中銀が政策金利を発表する。(銀)
最終更新日:2023年12月12日 17時26分