馬渕治好氏【新春特別編 2024年株式市場大予測 長期上昇トレンドは続くか】 <相場観特集>

特集
2024年1月4日 18時30分

―米利下げ期待が追い風となるも、米景気減速への警戒感とドル・円相場の動向に注意―

2024年相場がスタートした。昨年の東京株式市場では日経平均株価が年足で大陽線を引く形となった。一方、米国株市場ではFRBによる金融引き締めとの戦いだったが、NYダウは年末にかけて史上最高値を更新するなど見事に勝ち名乗りを上げたと言ってよい。今年は逆に利下げのタイミングを意識しながらの相場環境となる。昨年の東京市場は年前半に望外の上昇をみせた後、年後半はボックス圏での往来を続けたが、年末はその上限に近い3万3000円台で推移した。卯年相場は格言通り「跳ねる」展開となったわけだが、果たして辰年となる今年はどうか。俗に「辰巳天井」と言われ、アノマリー的にも「辰」は十二支のなかで最強といえる。年間を通しての株式市場の展望について、日米の経済動向に詳しく、投資家からの信頼も厚いエコノミストの馬渕治好氏に見解を聞いた。

●「年後半に水準を切り上げ年末3万5000円目標」

馬渕治好氏(ブーケ・ド・フルーレット 代表)

2024年の東京株式市場については年前半と後半に分ければ、前半は軟調、後半は上昇、という見通しだ。年前半の日経平均は、早期に3万円台を割り込み2万7000円近辺まで深押しする可能性がありそうだ。年後半については下値が3万円前後と下限が切り上がり、12月末までに上値3万5000円を目指す展開が想定される。

日本発の悪材料は少ないが、米経済の後退期入りが大きな懸念材料だ。23年と見込んでいた米景気後退は実現しなかったが、24年に先送りされる情勢にある。米国の個人消費と設備投資が想定外に堅調を維持したことが、景気悪化が後ずれした要因ではあるが、今後はいずれも悪化することが予想される。これまでの個人消費の強さは、20年以降の米政府による家計向け補助金などが手元に積み上がった、いわゆるコロナ貯蓄を取り崩すことにより、可処分所得以上の背伸びした消費が可能であったこと、そして借り入れ依存による背伸び消費の延命効果が反映されたことによる。

●利上げ政策のタイムラグは警戒材料

しかし、現状ではコロナ貯蓄は底を突いた状態で、借り入れ依存についてもクレジットカードの延滞率上昇に反映されるように限界が近い。また、設備投資については、バイデン米政権による製造業生産の国内回帰政策により下支えされたものであり、このバイデノミクス自体は高く評価される。しかしこれからは、これまでの利上げ政策のタイムラグ(企業が借り換えした時になって初めて金利上昇デメリットが顕在化する)が、今後の設備投資の圧迫につながりそうだ。

現在の米国株式市場は「軽度の景気悪化が金利の低下をもたらし、これがそこそこの経済状況と共存することで株式市場が上値指向を示す」という楽観的な展望に浮かれている。しかし24年のどこかで「景気の悪化によって金利は低下するものの、企業業績の悪化がそれを凌駕する形で結果的に株安につながる」という見解に、雪崩を打つように変わるだろう。

●1ドル=130円近辺の円高を想定

こうした米国の悪い方向への変化が、日本の株価を押し下げると考えるわけだが、その経路は複数想定される。まず米国経済の悪化は、既に不調をきたしている欧州や中国の経済と合わせて日本からの輸出に打撃を与えることが予想される。更に、米株安に加えての米ドル安・円高の進行も、東京株式市場にネガティブに働く。米経済悪化に先行する形で米長期金利が低下し、日米の金融政策が逆方向に踏み出していくなか、ドル・円相場は24年の春先まで円高方向に振れ、1ドル=130円近辺まで円が買われる展開を想定する。そうした円高局面では、輸出株中心に売りがかさみそうだ。

また、東京株式市場の投資家動向としては、特に23年央にかけての日本株の上昇は、海外投資家のうち「ツーリスト投資家」(日本株投資の経験が乏しく、日本のことをよく知らない投資家)による飛びつき買いによるものであった。そうした買いは、低PBRの解消などに向けての日本企業の急速な経営改革期待を背景としていた。期待の方向性は正しいものの極めて長期的な取り組みであり、急速に構造改革が進むとの目論見が先走り過ぎたきらいがある。勝手に期待したツーリスト投資家が勝手に失望し、手仕舞い売りが増えることが警戒される。

●長期的には株高基調に変化はみられず

とはいうものの、米国が景気後退に入ったとしても、「○○危機」と呼ばれるような状況に陥ることはないと考えている。既に米銀行は融資審査を厳しくし、不良債権の増加を抑えるよう備えているからだ。そして年後半は、連銀の再緩和が時差を伴って米経済の立ち直りを支え、米株市場が上昇に転じるとともに再びドルが買い戻され円安方向に押し返されるとみている。

更に数年単位の時間軸で眺めても、米国をはじめ世界経済の拡大基調が見込まれ、長期的な株高基調が想定される。したがって、日米株式市場ともに株価の調整場面では押し目買いの姿勢で対処するか、もしくは一時的な評価損をいとわないのであれば、押し目を待たずにロングポジションを高めてもよいと考えている。

なお、24年の重要イベントとして米大統領選への関心が高い。トランプ氏とバイデン大統領のどちらが勝利するか、現状では見通しがたい。トランプ氏が再び大統領の座につけば、欧州など同盟国との関係悪化や国際的な取り決めからの脱退、中国・ロシアとの関係の危うい変化など、諸々の外交政策が覆る恐れがある。そうした事態が生じるとしても25年以降のことになるが、24年に市場が先んじて織り込む可能性はある。

日本株の価値評価としては、現状は企業収益対比では割安でも割高でもないといえる。日本企業の収益予想は円安をハヤしてこれまで上方修正されてきたが、24年は外需がいったん悪化するとみられ、一転下方修正の恐れがある。それに対して内需は堅調で、外需と内需の綱引きが予想される。

(聞き手・中村潤一)

<プロフィール>(まぶち・はるよし)

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米MIT修士課程修了。米国CFA(証券アナリスト)。マスコミ出演は多数。最新の書籍は「コロナ後を生き抜く 通説に惑わされない投資と思考法」(金融財政事情研究会)。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。

★元日~4日に、2024年「新春特集」を一挙、"27本"配信します。ご期待ください。

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