1兆円超えビッグイベント「新紙幣発行」、関連銘柄を徹底リサーチ <株探トップ特集>

特集
2024年1月11日 19時30分

―期待から実需発生の段階へ、特需を業績に織り込む動きも相次ぎ注目度も上昇へ―

2024年の注目イベントの一つに新紙幣の発行がある。日本銀行 <8301> [東証]と財務省は昨年12月12日、新紙幣の発行期日を24年7月3日にすると発表した。

「新紙幣の発行」は04年以来20年ぶりのこととなる。前回の新紙幣発行時に比べて、現在はキャッシュレス決済の普及で経済波及効果は少ないとの見方はあるものの、現金の利用がなくならない限りは新紙幣に対応するハード・ソフトの更新特需も期待できる。いよいよこれまでの「期待」から「実需」が発生する段階となり、既に業績へ反映されている企業も出ているだけに、関連銘柄には再点検が必要だろう。

●偽造防止のため概ね20年ごとに改刷

新紙幣を発行するのは、主に偽造を防止することが目的だ。実際、毎年発見される偽造通貨の数は少なくなく、警察庁によると、コロナ禍前の19年には2887枚もの偽造紙幣が発見されている。偽造紙幣防止のため、国はこれまでも概ね20年ごとに紙幣の偽造防止技術やデザインを新しくする「改刷」を行っている。

今回の新紙幣発行に際しても、現在発行している紙幣は04年に発行を開始して以来20年近くが経過し、その間に民間の印刷技術が大幅な進歩を遂げていることを刷新の理由として挙げている。また、目の不自由な人や外国人のためにも、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえた紙幣デザインが世界の潮流であるともしている。

●最先端のホログラムが世界で初めて採用

今回の新紙幣の発行は、19年4月9日に24年度上期をメドに開始すると発表。その後の検討を経て、発行期日が7月3日に決定した。

1万円札の新たな肖像画は「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一となり、聖徳太子から福沢諭吉になった1984年以来40年ぶりに変更される。また、5千円札の肖像画は樋口一葉から津田梅子へ、1千円札の肖像画は野口英世から北里柴三郎に変更される。

変更されるのは肖像画だけではない。新紙幣では偽造防止の技術が一段と強化されており、肖像の3D画像が回転する最先端のホログラムが紙幣としては世界で初めて導入されるほか、「すかし」についても現行のすき入れに加えて、新たに高精細なすき入れ模様を導入した。また、識別マークは視覚障害者への配慮として形状や配置を変え、指で触って識別できるよう、深凹版印刷によりざらつきを作っている。

●1兆円を超える経済波及効果

新紙幣の発行に際しては、発行に伴う直接的なコストのほか、ATM・CD、自動販売機、自動券売機などで新紙幣に対応するための改修や買い替えコストが発生する。それらのコストは1兆円以上になるとされ、経済波及効果は大きい。

その一方、前回新紙幣が発行された04年当時に比べて、QRコード決済などキャッシュレス決済が普及していることから、改修や買い替えが前回ほどには発生しないとの見方もある。ただ、経済産業省が昨年4月に発表した22年のキャッシュレス決済比率は36.0%で、10年前の12年の15.1%と比較すると着実に上昇しているものの、海外の主要国に比べるとまだ低く、現金が活躍する場面はいまだ多い。また、現金が利用されている以上、新紙幣に対応する必要があるとの見方もあり、特需は期待できそうだ。

●特需を業績に織り込む動きも

既に業績へ特需を織り込む動きも出始めている。

銀行・小売業向け貨幣処理機で国内シェア5割強を占めるグローリー <6457> [東証P]は昨年11月7日、24年3月期の連結業績予想を営業利益で400億円から430億円(前期比82.4倍)へ上方修正し、過去最高を更新する見通しだと発表した。国内外で製品・サービスの販売が好調なことに加えて、国内市場で新紙幣発行に伴う改造作業の実施件数が想定より増加することが要因という。

また、スマレジ <4431> [東証G]は昨年12月13日、24年4月期第2四半期の決算発表と同時に通期業績予想を単独営業利益で9億1400万円から13億300万円(前期比45.8%増)へ上方修正した。主力のクラウド型POSレジシステム「スマレジ」の顧客獲得が順調に進み、利用料収入が伸びていることに加えて、新紙幣に対応するための自動釣銭機のシステム改造の売上高約1億8000万円が寄与する見込みとしている。

●まだある新紙幣発行で恩恵が期待できる企業

両社のほかにも新紙幣発行で恩恵が期待できる銘柄は多い。

日本金銭機械 <6418> [東証P]は流通小売り向けや交通向け、カジノ/ゲーミング市場向けの紙幣識別機や還流装置を手掛けている。世界の140を超える国や地域の貨幣に対応しているのが強みで、海外売上高は全体の約7割に及ぶ。昨年11月8日には24年3月期第2四半期決算の発表と同時に通期業績予想を連結営業利益で15億円から20億円(前期比3.2倍)へ上方修正している。

沖電気工業 <6703> [東証P]は、情報通信システム、ATM、プリンター、EMSが事業の4本柱で、ATMは国内シェア首位。24年3月期は下期にATMなどエンタープライズソリューション事業で新紙幣対応に伴う特需を含め約400億円の大口案件の売り上げ計上を予定しており、この寄与もあって連結営業利益は150億円(前期比6.2倍)を見込む。

このほか、紙幣処理関連機器や駅の自動券売機などを手掛ける高見沢サイバネティックス <6424> [東証S]、POSレジ大手の東芝テック <6588> [東証P]、紙幣鑑別センサモジュールの製造受託を手掛けるユビテック <6662> [東証S]、紙幣識別などに光技術が応用されている浜松ホトニクス <6965> [東証P]、紙幣計数機などを手掛けるムサシ <7521> [東証S]なども関連銘柄として改めて業績動向などをチェックしたい。

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