明日の株式相場に向けて=持たざるリスクと政府系ファンド
きょう(31日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比220円高の3万6286円と3日続伸。ここ3万6000円大台近辺で逡巡する動きをみせていたが、きょうはFOMCの結果発表とパウエルFRB議長の記者会見を日本時間あす未明に控えるなか、後場に買い気が強まり、ほぼ高値引けというセオリー破りの地合いとなった。押し目買いニーズの強さが際立ち、個別株も後場に入って上昇に転じる銘柄が急増。結局値上がり銘柄数は全体の74%に達した。売買代金も3営業日ぶりに4兆円台を大きく回復している。
投資する側としては元来タイミング的には様子を見るところ。焦ってここで蛮勇を振るわずともチャンスはいくらでもある。しかし、それを承知のうえで買いの手を緩めない勢力がいる。買い主体は海外投資家である可能性が高いが、今は欧米投資家だけでなく多方面から日本株に対する引き合いが活発だ。そうしたなか、政府系ファンドの存在が最近再び取り上げられるケースが多くなっている。
政府系ファンドといえば、オイルマネーの代名詞でもあるサウジアラビアのPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)が有名であり、今年は年明け早々に任天堂<7974>をはじめとする日本のゲーム株を買う動きが観測されメディアを賑わした経緯がある。サウジ皇太子がアニメ・ゲーム好きという理由がまことしやかに伝わったが、難しい理屈ではなくそういう軽いノリで日本株が選好されるというのは実は重要で、その他もろもろの買いの条件を既に満たしていることを暗に肯定しており、日本株の先高期待を投資家の潜在意識に焼き付ける効果がある。
これ以外に政府系ファンドでは、世界屈指の規模を誇るノルウェーの政府年金基金が折に触れ注目されるが、直近、市場関係者の間で日本の主力銘柄への実需買い攻勢が話題となっていた。グループ会社の相次ぐ不祥事などで本来ならば株価的にも大きなダメージを被りやすいトヨタ自動車<7203>が、空売り筋を弾き飛ばす強調展開を続けるのは、こうした大口の海外マネーによる“バルク買い”が支えている面もあると思われる。
強い相場のエネルギーは基本的に株式需給によるもので、外部環境は後講釈に使われるに過ぎない。中国の不動産リスクも中東の戦争も、あるいは国内政局も、株価が上昇している限りは悪材料として囃(はや)されることもない。目先的にはFOMC後のパウエルFRB議長の記者会見を経て早期利下げ期待が後退することが警戒材料だが、市場関係者は「仮にこのシナリオで株価が下に振られたとしても、それはノイズであって大勢トレンドには影響を及ぼさない」(中堅証券ストラテジスト)とする。「機関投資家は買った銘柄の株価が下がれば買い増せばいいだけ。一方、押し目待ちに押し目なしの状態となるのが一番怖い」(同)という。いわゆる“持たざるリスク”が投資マインドを支配している。
今回のFOMCについては前日も触れたが現状維持が濃厚で、会合後のパウエルFRB議長の記者会見でよほどタカ派寄りのコメントが出ない限りは3月会合(3月19~20日)もしくは5月会合(4月30日~5月1日)での利下げを折り込む方向となりそうだ。米経済は強く、なおかつ物価上昇圧力は順調に鈍化していることで、まさしくゴルディロックス相場(適温相場)のレールが敷かれているようにも見える。しかし、株式市場にとっての最大のリスクは“楽観”かもしれない。日本は4月の日銀金融政策決定会合(4月25~26日)でのマイナス金利解除の可能性が高そうだが、FRBとは異なり日銀は市場との対話が上手くいっていないという弱みがある。経験則として、持たざるリスクが囃されるようになると相場のトレンドは転換することが多く、ここはある程度キャッシュポジションを高めて次に備えておくのも一つの考え方だ。
あすのスケジュールでは、1月の新車販売台数、1月の軽自動車販売台数のほか、10年物国債の入札が午前中に予定される。海外では、1月の財新中国製造業購買担当者景気指数(PMI)、23年12月のユーロ圏失業率、1月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)速報値、英金融政策委員会の結果発表、10~12月期米労働生産性指数速報値、週間の米新規失業保険申請件数、1月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数、12月の米建設支出など。なお、海外主要企業の決算発表では、アップル<AAPL>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、メタ・プラットフォームズ<META>が注目される。(銀)