明日の株式相場に向けて=「異次元緩和」の終焉と次に見える景色
きょう(19日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比263円高の4万3円と続伸。朝方は様子見ムードだったが、後場に買い気が強まり結局高値引け。文字通り最後の一歩によって4万円大台での着地を果たす格好となった。
歴史的な観点でも注目度の高かった今回の日銀金融政策決定会合だったが、ほぼ想定通り。マイナス金利の解除、ETF買い入れの停止、イールドカーブ・コントロール(YCC)終了の3点セットは事前の観測報道と寸分たがわず、むしろ拍子抜けの感もあった。市場関係者の間では「(事前予想と合致したという点で)無風通過といってよい」(ネット証券アナリスト)という声も出ていた。だが、それでも株式市場の方はなかなか気迷い感を拭い去ることができず、日経平均はAIアルゴリズムによるヘッドライントレードの影響もあってか、発表直後は前日終値を挟んで右往左往する千鳥足モードとなった。
前日に先物を絡め1000円超の上昇をみせるなど、買われ過ぎ状態であったことから、きょうは事前コンセンサスと同等の内容なら日経平均は安くて当然という見方もあるにはあった。だが前日の想定外の株高をイレギュラーとみて、「直近ヘッジ目的でプットオプションを積み上げる動きが観測され、その手仕舞いが先物と連動した」(中堅証券ストラテジスト)という声も聞かれる。また、先物支配による理外の値動きは、前週11日の急落から引き継がれた一連の流れであり、つまるところプラマイゼロだ。きょうの日銀イベントはいわば仕切り直しで、原点回帰してからの再スタートという解釈もでき、相場の方向性はある意味この日を起点に徐々に鮮明化してくる。
きょうの決定会合通過後のポイントは為替動向。日経平均などの全体株価指数やメガバンクなど銀行株の値動きが不安定な上下動をみせる一方で、為替市場ではほぼ一貫してドル買い・円売りの動きに誘導される形となり、吸い上げられるように1ドル=150円台前半まで円安方向に振れた。日経平均が気迷った末に、結局上値を指向したのは、日銀イベントではなく足もとの円安効果が投影されたものと考えられる。決定会合の結果は事前コンセンサスと合致しているようでも、「植田日銀総裁の会見を待たずして、隠し切れないハト派的な匂いを漂わせていた」(生保系エコノミスト)という指摘もあった。
これは、声明文に「緩和的金融環境が継続する」と盛り込まれたことがひとつ。これについては実質金利がマイナスである限りは緩和的金融環境と強弁することは可能なので、いうまでもなく今後長期間にわたって緩和的であると言い切れなくもない。しかし、「国債買い入れに関して『4~6月もこれまでと同程度の買い入れを続ける』と明記したことで、市場は植田総裁のハト派寄りの気質を感じ取った」(同)とする。ともあれ、日経平均が取引終盤に尻上がりに水準を切り上げ、4万円大台を回復して着地したのとは対照的に、メガバンク各社の株価が小幅ながらマイナス圏で引けたことは、マイナス金利解除の先に浮かび上がっていた銀行サイドの思惑が希薄化したということを暗示する。つまり、日銀がゼロ金利に色をつける、本当の利上げに対しては慎重姿勢を維持しているということだ。
そして、足もとで進む為替の円安進行はあすのFOMCの結果も意識されている。政策変更はないものの、ドットチャートと会合後のパウエルFRB議長の記者会見に耳目が集まる。利下げのタイミングに関するコンセンサスは既に大分後ズレしている状況で、現状は6月がメインシナリオだが、更に遠くなる可能性がある。また、ドットチャートで年内3回の利下げが見込まれているが、メンバーのうち2人が翻意すれば2回がメインシナリオに変わる状況で、強靱な米経済と表裏一体とはいえ米株市場にとってはあまり嬉しくない。利上げに慎重な日本と、利下げ期待がしぼむ米国。この構図を横目に円安環境が維持されれば日本株には追い風となり得るが、新たな波紋を呼ぶ可能性もある。
あすのスケジュールでは、東京市場は春分の日の祝日に伴い休場となる。海外では中国最優遇貸出金利が開示され、インドネシア中銀、チェコ中銀、ブラジル中銀などが政策金利を発表する。2月の英消費者物価指数(CPI)にも市場の関心が高い。また、米国では連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表と会合後のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見が注目されている。このほか、米主要企業の決算発表ではマイクロン・テクノロジー<MU>の23年12月~24年2月期決算にマーケットの視線が集まる。(銀)
最終更新日:2024年03月19日 17時11分