明日の株式相場に向けて=インフレの足音と株高のトリガー
きょう(27日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比364円高の4万762円と反発。朝方は小高くスタートしたものの、そこからは先物に引っ張られ、坂道を駆け上がるかのごとく漸次上げ幅を拡大、後場に入ると一時は600円近い上昇でそのまま4万1000円台に踏み込むかという勢いをみせた。引け際の手仕舞い売りによる萎(しぼ)み方は、前日の米国株市場の値動きと瓜二つだったが、それを除けば終始強気が前面に押し出されていた。朝方の市場関係者との間では「配当再投資の思惑から、あす以降の先高期待は強いものの、配当権利落ち分が260円程度あるなか、敢えてきょう買いに動く必要性はない」(中堅証券ストラテジスト)という話であった。だが、その想定は外れた。
ドル買い・円売りの動きが加速しており足もと1ドル=151円台後半まで円安が進行、これが追い風となった。「前日に発表された2月の米耐久財受注が予想以上に好調でドル買いの動きを誘発した」(ネット証券アナリスト)という見方に加え、日本の方では午前中に、銀行出身者でタカ派寄りの日銀・田村審議委員が青森県金融経済懇談会で挨拶し、「金融政策正常化への第一歩を踏み出した」との現状認識を示す一方、「当面緩和的な金融環境が継続する」との見方を示したことが、モラトリアムな円安要因として捉えられたようだ。
もっとも円安好感とはいえ、きょうの東京市場で物色の矛先が向かったのはハイテクや自動車セクターというより、むしろ不動産や小売り、銀行、保険などの内需株が中心だった。特に不動産株へ流れ込む資金に勢いがある。都心を中心に公示地価の上昇が顕著だったことに反応し、きょうは業種別騰落率でみても「不動産」は33業種中で明らかに一頭地を抜いて買われる展開となった。日経平均が大幅に上昇する際には先物を絡めたインデックス買いによる浮揚効果が反映されるケースが多く、指数寄与度の高い値がさハイテク株が牽引するのが常である。しかし、きょうはこれまでとは「相場の質」が異なる。
中国では政府当局が不動産バブル抑制に動き、既にその効果が浸透し、確信犯的な形で不動産バブル崩壊が起きている。一方、半周遅れで米国でも商業用不動産の損失が懸念視されてきた。融資の焦げ付きが銀行のネガティブ材料としてどの程度のインパクトを持つのか今は定かではない。だが、13ポイント台の“大底・楽観ゾーン”を這うVIX指数(恐怖指数)とは裏腹に、現状で投資家のマインドに警戒の念が宿っていることは確かだ。
一方、日本はどうか。日銀の言を借りれば本格的なデフレ脱却がなされるのかどうかの正念場という位置づけで、不動産バブルを懸念するというような文言はどこにも見当たらない。マンション価格の高騰は巷間話題にはなっているが、例えば海外筋から見れば日本の不動産は、円安を追い風に「まだ安い今のうちに買い漁っておこう」という話の流れとなる。高値圏を舞う三井不動産<8801>や三菱地所<8802>、住友不動産<8830>など大手不動産株のここからの上値はともかく、出遅れている中小型の不動産流動化関連などにキャッチアップを期待した見直し買いの動きが出ても不思議はない。コスモスイニシア<8844>、グッドコムアセット<3475>などは動兆著しいが、前者はPER8倍台、後者はPER7倍台に過ぎず、押し目狙いなら投資対象として十分な魅力がありそうだ。
タカ派の田村審議委員でなくとも、追加利上げがどこかのタイミングで必要という論調は当然過ぎるほどの正論としてマーケットは認識している。しかし、今はようやくマイナス金利解除という異次元からの脱却を果たしたばかり。利上げの階段を上るにはまだかなりの距離があることにもマーケットは確信に近いものを持っているフシがある。世界とは周回遅れのインフレステージを東京市場は株高の原動力としてまだ反映していない。
あすのスケジュールでは、日銀金融政策決定会合の主な意見(3月18~19日開催分)が朝方取引開始前に開示されるほか、午後取引時間中に2月の建機出荷が発表される。また、この日はIPOが2社予定されており、東証グロース市場に情報戦略テクノロジー<155A>とカウリス<153A>が新規上場する。海外では、2月の豪小売売上高、3月の独失業率、週間の米新規失業保険申請件数、10~12月期米実質国内総生産(GDP)確定値、3月の米シカゴ購買部協会景気指数、3月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・確報値)、2月の米仮契約住宅販売指数など。なお、この日はグッドフライデーの前日で米債券市場は短縮取引となる。また、フィリピン、マレーシアの各市場が休場となる。(銀)