デリバティブを奏でる男たち【75】 バーチュのヴィニー・ヴィオラ(前編)
前々回の第73回では、キャップストーン・インベストメント・アドバイザーズを創設したポール・マシュー・ブリットン(Paul Matthew Britton)を取り上げ、第74回ではティンバー・ヒル・グループ(現在のインタラクティブ・ブローカーズ・グループ<IBKR>)の創設者であるトーマス・ピーターフィー(Thomas Peterffy)を取り上げました。ブリットンは後に電子取引のパイオニアと呼ばれたピーターフィーやティンバー・ヒルから多大な影響を受け、キャップストーンを創設しています。
今回はブリットンが金融界でのキャリアをスタートさせたロンドンを拠点とするヨーロッパの独立系デリバティブ・マーケット・メーカー、サラトガ・リミテッドを創設したヴィンセント・ジェームス・ヴィオラ(Vincent James Viola:通称ヴィニー・ヴィオラ)、および彼が共同創設者兼名誉会長を務めるバーチュ・ファイナンシャル<VIRT>を取り上げます。バーチュは後にマーケット・メイカーのナイト・トレーディング・グループを買収しますが、この会社が上場していたときに、ピーターフィーが空売りを仕掛けて大きく稼いだことは前回に触れた通りです。
▼インタラクティブ・ブローカーズのピーターフィー(後編)―デリバティブを奏でる男たち【74】―
https://fu.minkabu.jp/column/2267
ヴィオラは1956年、ニューヨーク市ブルックリンで、イタリア系移民の子供として生まれました。彼の父親は第二次世界大戦中、米国側の軍人としてヨーロッパで働いた後、トラック運転手をしていました。父親の従軍経験にならって彼は地元の工業高校を卒業した後、米陸軍士官学校(通称ウエスト・ポイント)に入学します。1977年に卒業した後は第101空挺師団に従軍しました。
1983年にはニューヨーク・ロースクールで法学博士号を取得します。在学中の1982年にニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX、現在はCMEグループ<CME>の傘下)で、石油取引のフロア・トレーダーの仕事を始めました。1万ドルを調達して取引所の座席(シート)を購入した彼は、NYMEX内で強いリーダーシップを発揮し、1987年から1990年までNYMEXの取締役、1993年から1996年まで副会長、2001年から2004年まで会長を務めました。
◆連続起業家のヴィオラ
また、ヴィオラはそのキャリアの中で幾つかの市場関連会社を立ち上げては売却しています。1987年には先物取引業者としてパイオニア・フューチャーズという会社を立ち上げました。同社は後に米国の先物手数料業者トップ50の1つになるまでに成長しますが、2004年に米先物大手だったレフコ・グループ・リミテッドに売却します。その翌年にレフコは上場を果たしますが、上場のわずか2カ月後に不正会計問題が発覚して経営破綻に追い込まれてしまいます。破綻したレフコの一部門として運営されていたパイオニアは、第37回で取り上げた世界最大の上場ヘッジファンド、英マン・グループの仲介部門であるアンダーソン・マン先物ブローカーに買収されます。アンダーソンはマン・グループから分離され、MFグローバルとして2007年に上場を果たしますが、ここでも上場の翌年に支店長の不正取引などが発覚し、2010年にMFグローバルは経営破綻しました。マン・グループに関しては以下をご参照ください。
▼ヘッジファンド業界の総合商社、マン・グループ(前編)―デリバティブを奏でる男たち【37】―
https://fu.minkabu.jp/column/1615
ヴィオラは1987年に、米テキサス州ダラス周辺の地方銀行としてファースト・バンク・グループも設立しています。また、翌年には同じくテキサス州の地方銀行としてインディペンデント・バンク・グループ<IBTX>を設立し、2013年に上場を果たしています。現在ヴィオラは同社の個人筆頭株主であり、息子のマイケルが上場の年から同社の取締役を務めています。
インディペンデント・バンク・グループ<IBTX>(月足)
◆マーケット・メイカーやクリアポートの立ち上げ
1989年には冒頭で紹介したサラトガを設立しました。1998年にサラトガの共同経営者だったデビット・シーゲル(第23回で取り上げたツーシグマ・インベストメントを共同で創業したデビッド・マーク・シーゲルとは別人)がMBO(Management Buyout、経営陣による自社の買収)を計画します。アムステルダムで順調に稼いでいたブリットンが同計画に加わることになったのは、第73回で紹介した通りです。このMBOでヴィオラはサラトガを売却しました。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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