石油の需給バランスにタイト化の兆し、今年もガソリン相場に注目を <コモディティ特集>
●米国のガソリン需要に注目
米エネルギー情報局(EIA)が先月に発表した週報で、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油と石油製品の在庫は合計で12億1194万7000バレルまで一時減少し、2022年12月以来の低水準を更新した。
冬場が終わり、ガソリン消費が季節的に拡大していることや、米製油所への原油投入量が増加していることが米国の在庫を押し下げている。ガソリン需要の4週間移動平均は日量889万5000バレルまで増加し、今年の最高水準を更新した。定期改修シーズンが終わり、米製油所稼働率は88.7%まで上向いている。北半球は需要期の入口に差し掛かっただけだが、需給が引き締まる兆候を既に認識できる。
米国は世界最大の石油消費国である。世界の石油消費量は日量で約1億バレルである一方、米国は日量2000万バレル規模を消費する。たった一国で世界全体の20%の石油を消費し、その半分近くをガソリンが占めている。米国のガソリン需要は世界全体の石油需要の1割近くであり、北半球の春から夏にかけて相場を変動させる主役となる。市場参加者は米ガソリン需要に注目し、需給バランスの変化を見通そうとする。ただ、EIA週報では需要の高まりがうまく反映されず、最終的に月報で確認できる場合もあり、統計的に消費を適切に把握しようとすると多少やっかいである。石油在庫の変動を手掛かりとするのが無難かもしれない。
世界最大の石油消費国である米国の需給タイト化は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫の引き締まりを示唆する。OECD在庫の変動は原油相場と連動する傾向にあり、OECDの在庫見通しは市場参加者の最大の関心事である。石油輸出国機構(OPEC)の月報によると、1月のOECD商業在庫は27億3500万バレルまで減少しており、昨年から穏やかに取り崩される傾向にある。
●ロシアの供給減、EV計画の修正も需給に影響
今年の北半球の需要期において、ロシアの供給減の影響は避けられないだろう。ロシアの製油所はウクライナ軍から度重なるドローン攻撃を受けており、稼働率が低下している。ブルームバーグの試算によると原油処理能力は日量40万バレル程度減少した。ドローン攻撃の標的となりうる製油所はまだ多く、ウクライナ軍によるロシアの石油産業に対する妨害行為は今後も相場を押し上げるだろう。
メルセデスやアウディなど大手自動車メーカーの完全EV化計画が修正されていることが示すように、多くの消費者がEVを喜んで受け入れているとは言えない。充電が面倒であること、販売価格が高い一方で下取り価格が安いこと、バッテリーの重さから車重が増してタイヤが損耗しやすいことなど、ハイブリッド中心だが化石燃料を使用するエンジンの見直しはすでに始まっている。自動車の電動化の揺り戻しも、今年の需給バランスに影響を及ぼすのか。需給両面で目を向けなければならない要因は多い。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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